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濱野 裕貴子 キャリアカウンセラー/ワークショップデザイナー 笑門来福
「お江戸」「古典芸能」というちょっとナナメの切り口から、人生やキャリアについて考えてみたいと思います。
古典芸能で紐解くキャリア・仕事・生きること 趣味・カルチャー 2015-08-25
古典落語de「むむっ、この幼児おそるべし!」

子どもに添い寝をしながら、おとぎ話。お話が終わるころには、子どもはすっかり夢の中…。親子の微笑ましい光景ですね。

ところがどっこい! 今日ご紹介する落語の主人公、金坊(推定6歳)は、一筋縄ではいかないツワモノなのです!

 

金坊を寝かしつけるために「『桃太郎』の話をしてやる!」というおとっつぁん。

「おとっつぁんが話すんだから、ろくな話じゃないね」などと憎まれ口を聞きながら、金坊はしぶしぶ布団の中へ。

 

おとっつぁんが「昔々、あるところに…」と話しだすと、さっそく金坊のストップがかかります。

「おとっつぁん、『あるところ』とはどういうことだい。漠然としすぎてるよ。何県の何町の何丁目何番地か、明快に言ってよ」

 

「つべこべ言わずに黙って聞け!」 おとっつぁんは続けます。しかしその後も、「おじいさんとおばあさんの名前は何だ」とか、「おじいさんが芝刈りに行ったのはなんという山だ」などと、いちいちイチャモンをつける金坊。

 

「うるせえなあ! とにかく、川から流れてきた桃から生まれた桃太郎が、犬と猿と雉をお供に連れて鬼が島に鬼退治に行って、宝を持って帰ってきたんだ。どうだ、おもしれえだろ!」

金坊のツッコミに嫌気が差したおとっつぁん、乱暴に話を終わらせます。

すると金坊は「ちっともおもしろかぁないよ。それに第一、おとっつぁんの話は間違ってるんだよ!」と言い出すではありませんか。

 

「なにを~っ。桃太郎なんざ、昔っからこういう話と決まってらあ!」といきり立つおとっつぁんに、「まあまあ、黙って聞きなよ」と話を始める金坊。その内容は以下のようなものでした。

 

・おとぎ話というのは、ただの他愛のない話ではない。実は教訓が詰まっているのだ。

・「あるところ」とぼやかすのは、場所をはっきり言うと範囲が限定されてしまうから。東京の場所を言ったのでは大阪や九州の人たちにはわからない。その逆もしかり。だから、融通がきくように、敢えて「あるところ」としているのだ。

・「おじいさんとおばあさん」というのは、実はおとっつぁんとおっかさんのこと。「山へ(芝刈りに)、川へ(洗濯に)」は、実は「父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深し」の比喩なのだ。

 

ここまで聞いたおとっつぁん、「これはおもしれぇや! ためにならあ! おっかあ、おめえもこっち来てきいてみろ!」とすっかり感心の様子。金坊はさらに続けます。

 

・桃から赤ん坊が出る。現実にはそんなバカな話はない。赤ん坊は本当はお腹の中から出るのだが、そのめんどうな仕組みを子どもに説明すると厄介なことになるから、桃から出たことにしたのだ。

・きびは雑穀、すなわち慎ましさを表している。「きび団子」は、「奢り高ぶってはいけない」と人間を戒めているのだ。

・「犬」は仁義、「雉」は勇気、「猿」は知恵の象徴。すなわち、世渡りをするには義と勇知が不可欠だということを示しているのだ。

・鬼が島へ鬼退治にいくのは、実は「かわいい子には旅をさせろ」を表しているのだ。「渡る世間は鬼ばかり」というように、「鬼」とは実は人間。「鬼が島に行く」というのは「奉公に出る」ということ。子どもはいつまでも家に置いておかずに、他人様のもと、すなわち世間へと旅に出すべきなのだ。そこで鬼と戦ってたくましく成長して出世をし、お金すなわち「宝物」を持ち帰る。そしておとっつぁん、おっかさんを安楽にさせる…ということなのだ。

 

「はい、めでたしめでたし…あれ?」

ふと金坊が横を見ると、おとっつぁんは既に夢の中…。その寝顔を見ながら、しみじみと金坊がこの一言。

 

「もう寝ちまってらぁ。大人ってのは、本当に他愛のねえものだなあ…」

ここまで理屈っぽい子どもがいたらどうしましょうね(笑)。

でも、金坊のロジカルかつペダンチックな説明は、本当にお見事(ちょっと小憎らしいけど(笑))。

 

金坊の話には、何だかとっても説得力があります。

誰もが信じて疑いもしない「桃太郎」のストーリーに疑問を持ち(実際の落語を聞くと、前段でしつこいほどにおとっつぁんにツッコミを入れていきます)、ひとつひとつ掘り下げて、新しい知識も織り込みながら捉え直しています。

単に論理的なだけでなく、ものごとを鵜呑みにせず、自分の頭できちんと考えてアウトプットまでしているのがすごいと思います。

もしかしたら金坊は、このまま育ったらすごい論客になってしまうかも。だってこんなに小さいのに、既にクリティカルシンキングみたいなことができちゃってるんですもの。

 

いや、金坊に限らず、子どもの純粋な「なぜ?」「どうして?」という問いかけは、実はすべてクリティカルシンキングの小さな芽なのかもしれませんね。

でも、そんな子どもの疑問に対してぞんざいな対応をしがちなのが、私たちおとな。

子どもの素朴な疑問って、実は正面切って訊かれると答えに窮するものだったりするものだから、「そんなことは考えなくてもいい!」、「これまで通りにすればいい!」、「屁理屈言うな!」といったおとな目線での対応をしてしまいがち。

こうしたことが、子どもにとって重要な小さな芽をみすみす摘んでしまうことになるのかも…。せっかく顔を出した小さな芽を、大きく育てられるようなおとなでありたいですよね(自戒を込めて)。

 

金坊の、ちょっぴり小憎らしいけれどみごとな新解釈の桃太郎を聞くにつけ、こんな気持ちになる私なのでした。

 

さて、今日ご紹介した「桃太郎」という噺、実は私は寄席でしか聴いたことがないのです。したがって音源のおススメが難しいのですが、四代目柳亭痴楽師匠のお得意ネタのひとつだったようで、CDにも収録されています。ご参考までに。

 

参考情報:ベスト落語 四代目 柳亭痴楽 「痴楽つづり方狂室-恋愛編-」「桃太郎」(日本コロムビア)


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