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森山 亜希子 人材育成トレーナー(ダイバーシティ、コミュニケーション) Inner Diversity
ダイバーシティという、さまざまな意味と想いが含まれるコンセプトがこのコラムのテーマです。わたしたちの身近な生活、自然、芸術、旅などの視点から、ゆったりリラックスしながらも、一緒に考えてみられるコラムを目指しています。
ダイバーシティで過ごす日々 キャリアアップ 2014-08-22
幸せを呼ぶダイバーシティ?〜読書から見えること

残暑を迎え、夕方にはだいぶ涼しさが増してきました。

少しずつ聞こえる虫の音に耳を傾けながら、一足早い読書の季節を楽しんでいます。

読みたい内容を、自分から引き寄せているのでしょうか。さまざまな本を読む中で、多様性(ダイバーシティ)の大切さについて触れられている本が増えてきているように思え、よい意味で驚かされています。 

今回のコラムでは、そのうちの何冊かをご紹介したいと思います。

まずは最近の話題本『里山資本主義:日本経済は安心の原理で動く』(藻谷浩介・NHK広島取材班著)です。2014年の新書大賞にも選ばれ、感銘を受けられた方も多いのではないかと思います。この本では、地方から経済も暮らしも活性化する、高度成長一辺倒ではない、人と自然とつながりあうことで生まれる新しい経済のあり方について、国内外の事例が多数紹介されています。

その本の終盤で、21世紀の人類が掲げるキーワードとして「多様性」があげられています。目にしたときには、何とも嬉しく、心強い気持ちになりました。

新しい資本主義の中での「多様性」それは、かつて地方では、どうしても都会と比べる心理が働き、無意識のうちに都会的な経済モデルを目指しては、人も資源もないとあきらめていた。しかし、それぞれの地方には、その地域ならではのよさと特性、すなわち多様性がある。人だって、いろいろな人がいて、みんながそれぞれの方法やペースで働けばいい。それぞれの多様性を生かし、みんなで違うアイデアを持ちあって交換しあえば、結果的に何か新しい力を生み出すことができるのではないか  そうしたメッセージが全編にあふれているように思います。

実際に、登場されている里山資本主義の実践者の方々が、生き生きとしてとても楽しそうなのです。直接お会いしてはいませんが、”自分(たち)ならではの何かを見つけられた方々の熱気が、本を通じても伝わってきました。

次に、『デンマークの子育て、人育ち:人が資源の福祉社会』(澤度夏代ブラント著)と『オランダの共生教育:学校が公共心を育てる』(リヒテルズ直子著)を読むと、両国の教育の特色として「みんな違ってあたり前」というキーワードが共通して浮かび上がってきました。

ちなみに、2013年に国連が発表したWorld Happiness Report (世界幸福度レポート)では、デンマークが幸福度の世界第1位、オランダが第4位となっています。
(日本は43位(全156カ国中)

「みんな違ってあたり前」— 子どもたちは一人ひとり違うのだから、学びたい内容や学ぶスピードが違っても当然であり、それぞれの生徒の持つよさを引き出すのが教育である。あくまで「個」を中心とした教育があり、その上で他者に向き合えること、多様性に寛容になれることが大切だという考えが、”あたり前”という表現から強くうかがわれます。

またその土台として、男性・女性に関わらず、生活も仕事もどちらも大切にできる「共生の社会」がかなり実現されているようです。

女性が仕事を持ち、結婚や出産と両立できるというだけではないのです。育児休暇の長さや復職後の仕事の量でさえ、どのようなプランをいつ実行するかを含めて、それぞれの人に多様な選択肢が認められ、お互いに支えあっているとのこと。

男性についても、子どもが生まれた際には育児休暇を取得する人が多く、それぞれの家族の選択で、時には女性よりも長く休む場合もあるのだそうです。保育園で子どもを迎え、平日でも早めに仕事を切り上げて子どもと遊ぶことも、それぞれの家族が決める「あたり前」のひとつ。こうした生活の実現を、オランダではワークシェアリング、デンマークでは週37時間労働(残業なし)が制度面でもしっかりとサポートしているそうです。

そうした大人たちが、子どもたちへ多様性の大切さを伝える教育を実現し、今度は教育を受けて大人になった子どもたちが、自分も他者も大切にして人生を実現し、次の世代の教育に反映していく。そういったよい循環が生まれているのではないでしょうか。

正直うらやましく聞こえますが、日本では人口構成として移民が少なく、「個」よりも「全体」としての同一性を求めるなど、社会・文化的な背景が異なります。オランダ・デンマークのようなヨーロッパの国々から学べることがあるにしても、日本ならではのよさと特性を生かし、それぞれの人の持つ多様性が大切にされる社会を作れるとしたら、どうすればよいのでしょうか。

そのヒントが、下記の本の中にありました。

 “残念ながら唯一の即効性のある解決策や正しい答えはないのだ。
 
完璧な答えや解決策の方策を持つスーパーマンや指導者や専門家もいない。
 
私たち、社会を構成する一人ひとりが、それぞれの現場で、少しずつ、
 
異なる分野やセクターと協力し合い、皆で智慧を出し合い、励まし合いながら、
 
一歩一歩やっていくしかない。
 
多様性を尊重し、多様な価値観や見方を活かしながら、なおかつ共に分かち合い
 助け合って生きていく「多様性と共生」の道を探ることが
 
今ほど求められている時代もない。”

 (中野民夫著『ファシリテーション革命:参加型の場づくりの技法』(2003年)より)

著者である中野氏は、学びや対話の手法としてのワークショップを日本で広めた第一人者として知られます。この本が出版された10年以上前と比べて、多様性についての議論はここ数年で活発になり、今では実際に多様性をテーマとした対話の場としてのワークショップも数多く見られるようになってきました。

遠回りでも異なる意見にお互いに耳を傾け、コミュニケーションを取っていくことが、やはりわたしたち一人ひとりに求められているのだと思います。現在に大人として生きる私たちは、数十年後の未来の子どもたちに何を伝えることができるのでしょう。また何を伝えたいと願うのでしょう。

少しずつ秋の気配を感じながら、そんなことを考え始めました。
さらなるヒントを探しに、愉しみでもある読書を続けてみたいと思います。

 


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