古典落語de「ニートの自立」 |
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学校を卒業しても働くことに踏み出せず、ニ―トになってしまう若者。 今日ご紹介する「唐茄子屋政談」は、いわば「お江戸版・あるニートの自立ドキュメンタリー」。おや、隅田川に架かる吾妻橋の上に、ふたつの人影が見えますよ。そっと近づいてみることにしましょう。
橋の上で今にも身投げをしようとしているのは、とある商家の若旦那、徳三郎。 「死ぬくらいなら死ぬ気で仕事をやれ! その覚悟があるなら面倒を見てやる!」というおじさんの愛の鞭に、徳三郎は生まれて初めて仕事をしてみる気になります。 しかしおじさんが世話してくれたのは、天秤棒を担いで唐茄子(とうなす:かぼちゃ)を売り歩く仕事。思わず、「唐茄子売りなんてカッコ悪い…」と本音をもらしてしまいます。 「そうかい。何もこっちが頼んで仕事してもらおうってんじゃねえんだ。そんな了見なら、さっさと死んじまいな!」。 こうして唐茄子売りになった徳三郎。炎天下、重い唐茄子に翻弄されながら必死で歩き回ります。しかし、出商人(であきんど:行商)に必須の「売り声」がろくに出せないので、ぜんぜん買ってもらえません。とうとう石につまずいて転び、往来に唐茄子をぶちまけてしまいました。 転がった唐茄子をみて徳三郎が泣きそうになっていると、偶然通りかかった見知らぬ兄ぃが声をかけてきました。徳三郎の話を聞いた兄ぃは、「気の毒になぁ。よし、俺がちょっと軽くしてやらぁ」と、道行く知り合いに(時には見ず知らずの人にまで!)、片っぱしから唐茄子を売ってくれます。気づけば、残りはたったふたつになっていました。 「あとは自分で売れるだろ。商売、一生懸命やりなよ。もしまた売れねぇ日があったらここに来な。手伝ってやるから…」。 さあ、徳三郎の行動が目に見えて変化するのは、この後からです。 商売には「売り声」が重要だと気づいて、歩きながら「唐茄子屋でござ~い!」と一生懸命に練習したり(練習の途中でかなり気が散る様子はご愛敬ですが)、お金に困っている子持ちのおかみさんに、ひとつぶんのお金で唐茄子をふたつ売ってあげたり。さらにおなかをすかせた子どもには、自分の弁当まであげてしまいます。
それまでの徳三郎の人生には、汗水たらしてお金を稼いだり、他人様のために「自分が何かをする」という経験がありませんでした。お金は(稼ぐものではなく)「もともとあるもの」だし、他人からの好意も「お金と引き換えに買うもの」だったのですね。 そんな徳三郎を変えたのは、仕事を通じた人との出会いでした。 見知らぬ自分を快く助け、励まして、「もし困ったら頼って来い」とまで言ってくれた兄ぃ。彼の見返りを求めない援助行動は、徳三郎には驚異的に映ったに違いありません。さらに兄ぃは、お客の呼び寄せ方やセールストークなど、商売のやり方も見せてくれました。兄ぃとの出会いにより、徳三郎の中に「こんなに親切にしてもらって、このままでは終われない!」という気持ちが芽生えたのではないでしょうか。 また、子持ちのおかみさんとの交流では、「自分が一生懸命何かをしてあげることによって喜ぶ人がいる(そして、自分もいい気持ちになる)」ということに、初めて気づいています。 もしかすると、「信頼できる支援者(兄ぃ)」、「ロールモデル(兄ぃ)」、「感謝される体験(おかみさん)」などが、ニート脱却・自立には重要なことなのかもしれませんね。特に「感謝される体験」は、「自分にも提供できる価値がある。自分も人を助けられる」という自信につながり、仕事をすることの意義や喜びを実感させてくれるのではないかと思います。 この後の展開ですが…。
最後に…。 何をして暮らしているか、どんな職業に就いているかは結局どうでもよいことで、むしろ重要なことは、自分の持ち場、自分の活動範囲においてどれほど最善を尽くしているかだけだということです。活動範囲の大きさは大切ではありません。大切なのは、その活動範囲において最善を尽くしているか、生活がどれだけ「まっとうされて」いるかだけなのです。各人の具体的な活動範囲内では、ひとりひとりの人間がかけがえなく代理不可能なのです。(V.E.フランクル)
参考図書:V.E.フランクル「それでも人生にイエスと言う」(春秋社) |
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