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滝澤 十詩子 歌人 こころカンパニー
このコラムは短歌についてと歌人十詩子の日常を感じるままを書いているコラムです。短歌に対するむずかしい印象や高い敷居がなくなっていくと思います。あなたの人生が豊かで実り多いものでありますように。
東京女子ほっこり短歌 趣味・カルチャー 2014-03-10
母とショーン

なんか、雪がすごかったですね。
ずしずし降ってきましたね。

私の実家は長野なのですが、そして、長野って雪国のイメージがあるんですが、
実は、どちらかというと内陸性気候で積っても10センチくらいで、
降雪量は想像されているほど多くないのですね。
どちらかというと氷の国で、だからスピードスケートとかが強いのです。
なんでフィギュアじゃないのかはよくわかりません。
なんでなんだろ。県民性ですか?
だれか愛知県と長野県の県民性の違いを比べてほしいです。

さておき、今回の大雪は本当にすごくて、どうやら70センチくらい長野でも積ったそうです。
そう70センチとかだと、身長が145センチくらいしかない母は約半分埋もれるわけです。
なのに、その70センチのところに、タクシーの運ちゃんがこれ以上もう無理だからって
おろされてしまったんですって。

家まであと500メートルくらいのところで。雪が70センチくらいのところで。
もちろん、雪かきなんてまだ誰もしてないし、しかも、雪はずしずし降ってくる。

そんなところで!
もしかしたら、歩いているうちに雪に埋もれてしまうかもしれない。
そんな怖い体験をしたの!という話に、当然東京で会ったときにはなるわけですが、

母が最初に発した一言。
「聞いて!雪の中、泳いで帰ってきたのよ!!」

雪の中を泳ぐ?

普段聞きなれない言葉を聞くと、なんか脳に別のスイッチが入るんですかね。
なんか、さきほど説明したような実際のひどい話をしてもらっても全く耳に入らず、

「え?平泳ぎ?クロール?」

なんていうしょうもない質問をしてしまうわけです。

しかも、それに対して

「うーん、そうね。あれは、平泳ぎよ!かきわけるのよ!」

とかまじめに返してくる母がいるものだから、

「たしかにクロールじゃ進まないか」

なんて答えてしまう私もいるわけです。

で、なんかひどいタクシー運ちゃんの話なんて、話題に上らず、
なんか元気そうで良かったよ~っていう感じになるわけです。

まあ母は、まだプンスカしていましたが、
それも笑っちゃう感じな空気感にしかならないのです。
「雪の中を泳ぐ」母を想像すると。

そして、雪と言えば、ソチオリンピックもありましたね。
ソチは実は温かいところで、雪は運んできたってほんとですかね?

さておき、毎回、オリンピックはとても楽しみにしていて、
見られる時間帯は大体テレビにかじりついていて、
特にスノーボードはほんとにかっこよくて、うきゃうきゃ言いながら見てたんですね。

そして、ハーフパイプで金メダル候補だったショーンホワイトさんが、
今回金メダルどころか、メダルさえも逃してしまったときに、
日本生まれ日育ちの私は思うわけです。

あ~きっと、

「今まで支えてもらってくれた人に申し訳ない」
「アメリカに、メダルをお届けできなくて申し訳なかった」
「期待にこたえられなくて申し訳ない」

など、そんな思いに沈んでいるに違いない。そんなふうに瞬間的に思っていたのです。

程度の差こそあれ、日本選手でメダルを期待されて取れなかった方って、
みんな「ごめんなさい」っていう表現は必ず言いますよね?
だから、なんとなく自然な感情と思いこんでいたふしがあります。

そして、そんななか、現れたショーンホワイトさんの一言。

「今日は僕の日じゃなかった」

うわい。

その観点か。そんな日もあるさ的な。
いやいや君オリンピックだよ!と思わずつっこみたくなってしまったのですが、
なんともいや、すがすがしいなと思ったのです。

もちろん、この言葉の前に「残念、受け止めるのはとてもつらいが」という言葉があるので、
悔しかっただろうし、申し訳ない気持ちもあるのかもしれないけど、
「僕の日じゃなかった」っていうこの表現は日本人にはないなあって、
なんか新しいなとすごく新鮮に受け取ったのです。

「雪の中を泳いだ」母と、「今日は僕の日じゃなかった」ショーン。
「吹雪の中に置き去りにされた」母と「メダルを逃した」ショーン。

どちらも同じ事実なのだけど、
言葉を変えると、こうまでとらえ方や自分の感情が違うものかと、
ちょっとはっとしたのです。きつねにつままれた気分ってこんな感じかしら。

普段、きっと私たちは発している言葉のイメージにとらわれて、さらにまたそれに反応して、
悲しくなったり、苦しくなったり勝手にしているんじゃないかなと。
無駄なエネルギーを消費しているんじゃないかと思うのです。

どうせなら、「雪の中を泳いだ」母と、
「今日は僕の日じゃなかった」ショーン的な言葉の使い方をしていきたい。
自分のとらわれている言葉を別の表現で表してみたい。

そんなふうに心から思ったのです。

しかし!詠めた短歌はこんな感じ。

空からの白く冷たい贈りもの ぎゅっとかためてぼんぼん投げる

雪合戦したかったの。ちん。

まだまだ母とショーンへの道は遠く。
あなたとわたしの使う言葉が母とショーンに近づきますように。

十詩子
 


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