東京で働く女性のライフスタイルマガジン［東京ウーマン］

『ヤング≒アダルト』 　Young Adult （2011）
監督 ジェイソン・ライトマン
脚本 ディアブロ・コーディ
出演 シャーリーズ・セロン、パットン・オズワルト、パトリック・ウィルソン、エリザベス・リーサー、J・K・シモンズ

メイビスは、アメリカ中西部の最大都市ミネアポリスでひとり暮らしをする３７歳。仕事はヤングアダルト小説（ライトノベルのようなもの）を、原案者の代わりに書いている小説家、もといゴーストライターだ。美人なのにバツイチで、まともな彼氏もいない。部屋は汚く、ファッションアイテムとしてチワワを飼っているが、ロクに面倒もみない。アル中気味でもある。都会のかっこいいキャリアウーマンのはずなのに、どこかうまくいかず、絶えずイライラしている。そんな時、故郷の元カレから「第一子が生まれました！」という能天気なメールが届く。彼女の中で何かが切れ、大嫌いなド田舎の故郷へ数年ぶりに帰省する。元カレのしあわせをブチ壊し、あわよくば元カレとヨリを戻すために…。

冒頭でメイビスが、プリンターのインクが切れ、自分のツバを垂らしてなんとかするという驚愕の裏ワザが出てくる。そのイタさに、思わず目をそむけた。基本コメディなのだが、とてつもなくイタい彼女の姿は笑えない。メイビスは高校時代プロムクイーン、町一番の美女だった。過去の輝かしい栄光。「私は今でも一番で、特別な存在なんだ」それが幻想であることにとっくに気付いているのに、やめられないメイビス。故郷で、しょーもない振る舞いばかりしてしまい、地元でまったり楽しくやっている女性たちから「まだ女王様気取りだよ、クソ女！」と罵られ、メイビスが高校時代鼻もひっかけなかったイジメられっ子マットからは、「大人になれよ」と諭されるのだ。

そういえば少し前に、永遠のアイドル松田聖子に憧れる現象があった。第一線で活躍し、いつまでも美しく、素敵な恋人がいてママでもある。あんな風に全部ほしい。頑張れば、願いは全てかなうはずだ！…って、いやいや、全部は無理でしょう。全部ほしがるメイビスは、欲求不満で孤独な中年女だ。「ＪＵＮＯ／ジュノ」で、米アカデミー賞脚本賞を受賞した元ストリッパー、ディアブロ・コーディと、その監督ジェイソン・ライトマンがタッグを組んだ２作目だが、「ＪＵＮＯ／ジュノ」もそうだったように、イタい女を嗤う単純なコメディではなく、真摯に、大人になるとはどういうことなのかを考えさせる作品を作っている。そして、その解答は導き出されない。

クライマックスには、ヌーブラを愛用するメイビスの、これまた目を覆いたくなる、まるで罰ゲームのようなイタいシーンがある。メイビスを演じるのは、世界一の美女にも選ばれているシャーリーズ・セロン。こんなド級の酷い役やらなくてもいいのに…と、老婆心ながら忠告したくなるが、しかし彼女はヨゴレ役が大好きなのだ。１０キロ以上増量し、ブサイクメイクで実在の連続殺人鬼を演じた「モンスター」、世界初のセクハラ訴訟事件を扱った「スタンド・アップ」、近年の「スノーホワイト」も「プロメテウス」でも、美人すぎてもはや人間ではない領域に入っているような。２０１５年公開の最新作では、丸坊主らしい。

なんで世界一の美女がこんな役ばかり演じるのか。勿論その真意はわからないが、南アフリカ出身の彼女は幼少時代、想像を絶する辛い家庭環境に育っている。アル中の父親は、母と彼女に暴力をふるった。そしてシャーリーズ１５歳の時、彼女を暴力から救おうと、目の前で母が父を射殺。正当防衛が認められ、母娘はやっと普通の暮らしができるようになったという。世界一の美女は、どうやら容姿だけを消費されるのは嫌なようだ。この映画を見ながら、ヨゴレ役を演じ続けるシャーリーズにも、思いを馳せてみてほしい。