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村井 えり ディレクター兼シナリオライター MURAIERI
世間知らずで勉強もできなかった私にとって、映画は多様な人生の教科書でした。心の奥深くにちょっぴりトゲが刺さるような、女性(と女優)の人生について考えさせられる作品を紹介しますので、是非一緒に考えていただけると嬉しいです。
映画が描くオンナの人生いろいろ 趣味・カルチャー 2014-03-22
しあわせの隠れ場所

『しあわせの隠れ場所』  The Blind Side(2009)
監督 ジョン・リー・ハンコック
出演 サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン、ティム・マッグロウ、キャシー・ベイツ


テネシー州メンフィスで、レストランチェーンを経営する裕福な夫と2人の子どもを持ち、何一つ不自由のない暮らしの白人「セレブ妻」リー・アンは、ある日、雨に濡れながら夜道を歩く巨体の黒人少年マイケルと出会い、「拾う」。酷い家庭環境の中で、ホームレスとなってしまったマイケルの境遇を知り、彼を家庭に招き入れる。その後、マイケルの中に眠っていた才能を開花させたリー・アンは、マイケルを正式に家族の一員にする。

ちょっと待って! テネシー州といえば米国南部、ゴリゴリの保守層ばかりいて、人種差別も強い地域というイメージ。そこでこんな夢のような「イイ話」があるのだろうか?
それがあるのです。現在も活躍するアメリカン・フットボールの選手、マイケル・オアーについて書かれたノンフィクション『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟』を元に作られた、いわゆる「実話モノ」。そうじゃなかったら、こんなことあるわけないじゃん、と一笑に付されそうなストーリーだ。「イイ話」すぎて、私のようなスレた人間が興味を惹かれる題材ではないが、しかしながらこの作品には、見逃せないポイントがいろいろある。一番重要なポイントは、この作品で米国アカデミー賞主演女優賞に輝いたサンドラ・ブロック演じるリー・アンの、ちょっと不思議なキャラクター造形だ。

今年なんと50歳になるサンドラ・ブロック。正統派の美人ではないと私は思うのだが、一度見たら忘れられない奇妙な顔立ちのような。『スピード』『デンジャラス・ビューティー』など、タフで頑張り屋さんの役柄が似合い、この20年ハリウッドの第一線で活躍している。アカデミー賞を獲りますますキャリアアップ、直近の『ゼロ・グラビティ』はほとんどひとり芝居だし、日本未公開のコメディー作品も米国では大ヒット。オバサンなのに、何でそんなに人気があるのだろう??

話を元に戻して、『しあわせの隠れ場所』のリー・アンはというと…。派手な服装で、気が強く、家族は誰も彼女に逆らえない。「かかあ天下」「肝っ玉母さん」というより、「美魔女」「ヤンキー」「女王様」といった感じだ。「イイ話」にしては、キャラクターが強烈すぎる。このオソロシイ女が、突然黒人少年を「拾って」きたのである。アクセサリーにするつもりなのか、「いい人」ぶりたいだけなのか。そうではない、と映画は語る。彼女は色眼鏡なしに善良な人間を見つけ養育した、これぞ真に善良な人間である、と…。この地域に現実にそんな人がいるの?という疑念に対し、映画は一生懸命エクスキューズを加える。

マイケルにつきまとう不良黒人との対決でリー・アンは「あたしは全米ライフル協会に入っているんだからね」と恫喝し、自分同様のセレブ妻たちから「白人であることの罪滅ぼしなの?」と嫌味を言われれば「もうあんたたちとは友達じゃない」と啖呵を切り、南部では珍しい民主党支持者の女性教師をマイケルの家庭教師にしたり…。どうやら作り手は、裕福な保守層の白人でもリベラルで善良に生きることはできるんです、皆さんもリー・アンのようになりましょう、と、本気でそう伝えたいらしい。やっぱりそんな人、全然いないからだろう。

それにしてもサンドラ・ブロックは、35歳で時を止めたようだ。この作品でアカデミー賞を獲った同じ年、『ウルトラ I LOVE YOU』というコメディーでワースト映画の祭典・ゴールデンラズベリー賞最低主演女優賞を受賞するという栄誉?に輝いているが、リー・アンのような美魔女は良くても、『ウルトラ I LOVE YOU』でブロックが演じた30代前半の女は、若づくりが過ぎてイタい。そして『ゼロ・グラビティ』・・・15歳以上年下の女を演じ続ける美魔女ブロックの快(怪)進撃は、まだまだ続きそうである。


 


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