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森山 亜希子 人材育成トレーナー(ダイバーシティ、コミュニケーション) Inner Diversity
ダイバーシティという、さまざまな意味と想いが含まれるコンセプトがこのコラムのテーマです。わたしたちの身近な生活、自然、芸術、旅などの視点から、ゆったりリラックスしながらも、一緒に考えてみられるコラムを目指しています。
ダイバーシティで過ごす日々 キャリアアップ 2014-05-23
インクルージョンとは 〜 ハワイで出会った風景から

木々の葉がそよ風に揺れ、さわやかな季節を迎えました。

今回のコラムでは、心に大切にしまっていたエピソードをひとつ、お伝えしたいと思います。

数年前に、オアフ島を訪れた時のことです。

その日、ホノルル市内を走るバス - The Busの車内は、少し混み合っていました。
空気のゆっくりとした、夏の日の午後です。

わたしは立ちながら、楽しそうなまわりの乗客たちを眺めていました。
観光客と地元に住んでいそうな人たちとが、おそらく半々だったように記憶しています。

乗客の中に一人、車椅子に乗った女性がいました。

バスの車内には、車椅子を利用する人のために、しっかりとしたスペースが設けられています。
混んだ車内でも、乗客たちはそのスペースを尊重し、女性はリラックスして見えました。


今度は、初老と思われる白髪の女性が乗ってきました。

足が弱いようで、相当にゆっくりと乗り込んできます。
乗客たちは、
手を差し伸べようと、つぎつぎに声をかけ始めました。

その時です。
車椅子に乗った女性も、初老の女性に声をかけました。

”Are you alright?” (大丈夫ですか?)
”Would you like to be here?” (こちらのスペースに来られますか?)

今度は初老の女性が、おだやかな笑顔で答えました。 

“No, I’m all right. Thank you.” 
(いいえ、大丈夫です。ありがとうございます)

そしてその後、自分の足で本当にしっかりと立ち続けました。

わたしは、この一瞬の出来事に心を打たれました。

まず車椅子の女性は、歩くことはできないという、ハンディキャップを背負っています。

ところがその声には、自信のなさは少しもありませんでした。

むしろ、その女性に感じたのは、だれかが助けを必要としているなら、もちろん手を差し伸べるという人としての強さでした。

初老の女性は、まわりが不安に思うほどの歩みでした。

にもかかわらず、多くの声に対して大丈夫だと、はっきり意志を伝えました。
遠慮からではなく、本当にできると感じていることが、その声から伝わってきました。


まわりの乗客たちは、初老の女性にできるだけ声をかけました。
しかし、本人の発言を聞いてからは、押し付けることなく尊重して見守り続けました。

そして同時に、自分自身について、無意識に持っていた偏見にも気がつかされました。

車椅子の女性に対しても、初老の女性にも、弱い存在なのだろうと思い込んでいたからです。
しかし彼女たちは、芯をしっかりと持った自立した女性でした。


ダイバーシティ(人の多様性)とよく似た概念に、インクルージョンという言葉があります

ダイバーシティは、人々の違いがそこに存在してさえいれば、あると言うことはできます。

それに対して、インクルージョンは違いを持った一人ひとりが、単に存在しているだけではなく、受け入れられていると感じる、すなわちインクルード(include)されていると感じる、心の内面のことを指しています。

インクルージョンは、人々の態度だったり、行動だったり、雰囲気によって生み出されます。

ダイバーシティが心地よく存在するには、インクルージョンがとても大切な土台になります。

数年前のこのシーンでは、車椅子の女性、初老の女性、そして地元の人、観光客など、目に見えるダイバーシティが存在していました。

ただそれだけではなく、インクルージョンもあったのだと思います。

もし乗客の多くが、この女性たちが「普通」とは違うことを不快に感じていたなら、2人とも自己を表現することは難しかったかもしれません。

しかし乗客たちは、その態度や行動や雰囲気で、女性たちを受け入れていることを示しました。

女性たちの方も、受け入れられていると感じたからこそ、車椅子の女性は声をかけ、初老の女性も、まわりの配慮に感謝しつつ、自分の意志を伝えることができたのかもしれません。

そして、そこには「声」がありました。

だれかを気にかける声、意志やお礼を伝える声、それらの声を通じて、その場はインクルージョンに包まれました。

わたしたちは、ともすれば、声を出さずに毎日を過ごすことができます。

バスの中で、電車の中で、会社のエレベーターの中で、近所の道で、だれかと出会い、すれ違っても、声をかけあわずに、さっとその場を去ることもできます。

しかし、時には声をかけあうことで、インクルージョンのある日常を作れるかもしれません。

“ここで降ります”
”お先にどうぞ”
“ありがとうございます“

こんな声があるだけで、街の空気も少しやわらぎそうです。

そうすることで、もしも変わった人だと思われたら?

ようこそ、ダイバーシティへ。
自分を表現して生きていく、小さな一歩になりますように。
そしていつの日か、「声」がめぐりめぐって、届きますように。

そよ風はいつも、どこかできっと心地よく吹いています。

 


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