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■ 東京ウーマンレポート


モニカ・メルツ氏(トイザラス アジア・パシフィック社長)

トイザラスでは男女平等に取り組まれていますが、どのくらいまで完成に近づいていると思われますか。1-10で評価するとして、いくつでしょう?(10が一番いい数字)
とても面白い質問ね。これまで私が見てきた経過から感じるのは、私が来る前までは、企業はこの問題、つまり女性に関してのことにあまり取り組んでいなかったと思います。ここ数年かけて、フレキシブルな労働時間の設定や、産休に入った女性を復職させたり、復帰しやすい環境を整えてきました。特に日本は保育環境が整っていませんので、労働時間に柔軟性を持たせることが、復帰しやすい環境を作る上で重要だと思いました。

そうですね、もし評価するのであれば、「7」でしょうか。(広報の女性に対して)言い過ぎかしらね?!(笑)でも、勿論パーフェクトではないし、もっとやらなければならないことがあるし、男女平等に関する認知度も上げていかなければならないと思っています。

男性はもっと職場に有能な女性がいることを認識しなければならないし、既に上層部にいる女性を外から雇うことも必要かもしれません。私はよくこの女性に関する問題について、シニアマネジメントやミドルマネジメントからフィードバックを貰うようにしていますが、いい評価・反応も貰っているんです。でも、それでもパーフェクトじゃない。パーフェクトと言いたいですけれどもね。例えば、店舗などにまだまだ課題があると思っているのです。

サービス産業ですから、もしあなたがマネージャーならば、月曜日から金曜日の仕事じゃないですよね。週末も働かなければなりませんよね。それは結婚している人には厳しい条件かもしれません。しかも結婚したばかりだとしたら、奥さんが土日にいないというのはご主人も快く思わないこともあるかもしれません。私はよく従業員の退職の理由に興味を持つようにしているのです。

何故、女性だけでなく男性もトイザラスを去らなければならないのか。それを知ることが企業をより良くすることにつながると思うからです。これまで女性で退職を選ぶ人の中から「夫が働くことを良く思っていないからです」という理由を聞くことがありました。とてもよくわかります。リテール業界では土日も働かなければならない、家族の理解がなければ無理です。

そして考えたんです。どうしたらこういう人たちが働き続けることが出来るか、と。例えば、希望するのなら、店舗から本社に異動させることも出来ます。彼らは顧客とのコミュニケーションにおいても非常に長けていますし、能力を発揮できます。望むのならば、家族との時間を作ってあげることも、働きやすい職場を作る上で大切です。
女性活用を進めていて、ダイバーシティは企業の成功にとって必要であると確信できますか。
キーになると思っています。特に我々はベビーや子供向けの玩具などを扱った小売業です。時々、お父さんだけで来店される方もいらっしゃるけれど、大体において購入の決定権を持つのは、これは、おもちゃだけに限らず、日本や北米などでも統計が出ていますが、住宅や車や家具など、大きな買い物をする時にも、女性が決定を下していることが多いということが分かっています。

ですので、私たちもマーケティングや品揃え、更にはレイアウトなども含め、どう女性が感じるのかを考えています。こういった視点からもダイバーシティを取り入れていることは大変重要なのです。小売業だけでなく、消費財メーカーもそうでしょう、保険などの金融業にも言えることだと思います。
男性経営者の中からは、ダイバーシティマネジメントでは利益は上がらないという声も聞かれることがあります。
まず、人口の半分は女性な訳ですよね。半分の男性だけで考えていてはいけません。あとの半分の新鮮な考え方、新しい考え方を使うことが、企業や国を前進させることになるのです。もう過去に戻ることは出来ないのです。 また、現実的な問題として、労働力の減少が深刻な問題になっています。

少子高齢化が進んでいますよね。そんな中で、どこで将来のリーダーを探してくるか。これからは日本国内だけで競争していくわけではないのです。世界はグローバル化しているのです。そういう競争が激化する中で、ダイバーシティというのは企業にとって大変重要な課題になっているのです。
おっしゃる通り、ダイバーシティへの取り組みは、日本において喫緊の課題になりそうですね。そんな中で、まだまだ国レベルで見ると、日本の男女平等は進んでいません。実際に日本に来られて感じるギャップはどのあたりにありますか。
勿論、ギャップはあります。疑いなく。例えば、カナダの例を取りますと、保育などの環境が簡単に手に入ります。ベビーシッターもそうです。フィリピン人のベビーシッターを家に住まわせている例も多くあります。このベビーシッターがキープできているというのは、働く女性にとって、仕事を続けられる重要なポイントにもなります。

まず日本ではこの子供を預かってくれる場所の欠如が女性の仕事復帰を妨げていると感じます。今後、この分野での規制緩和を進めていかなければならないし、選択肢を数多く作っていく必要があると考えます。
ここからは、女性のリーダーについて伺わせて下さい。そもそも、女性のリーダーと男性のリーダーに違いはあるのでしょうか。
人はそれぞれ違ったリーダーシップスタイルを持っているはずです。しかし、女性のリーダーは、これまでに、恐らくどこかで妨害や障害のような壁に当たっていると思うんです。ですから、どこにその壁が待ち受けているかをよく御存じのはずです。 また、女性リーダーは常に自らがロールモデルになっているという自覚があるはずです。

これまで私の経験から言うと、採用面接の際に、女性の志望者が「この会社を選んだ理由は、あなたのような女性リーダーがいるので、働きやすいと感じたからです」ということが多々ありました。 また、今日、女性のリーダーにしても男性のリーダーにしても、従業員やスタッフに対してのセンシティビティ、つまり、思いやりや気配りが重要になってきていると感じています。

例を上げますね。私がカナダにいた時、私の部下の男性が娘の試合を観戦したいのだけれど、早退してもいいかと聞いてきたんです。私は、「私に聞くまでもないわ。あなたはあなたの時間のオーナーなのだから、勿論どうぞ、行きなさい」と言ったんです。

リーダーはフェアである必要があると思うのです。もし本当に変革を起こしたいと考えるなら、企業の公平性を今一度確かめるべきです。女性だけに特権を与えるのではなく、男性にも与え、公平・公正性を高めるべきなのです。
ただ、日本の中には、まだ女性はリーダーに向いていないという考え方もあるように思います。それは、女性特有のライフイベントだとか、また女性は感情的だからという理由も聞かれます。どうしたら、このようなステレオタイプの考え方を変えることが出来るでしょうか。
まずね、私は感情的なのは悪いことじゃないと思うわ!(会場中大爆笑) 男性だって感情的よね(笑)。 当然、女性はいいリーダーになれると思います。几帳面だし、家族・家庭の事も上手くやりこなしている、子育てもやっている。これらのスキルは、企業をまとめるのに必要なスキルと全く同じですよね。

つまり、同時に沢山のタスクをこなせる技術を身につけているということです。 私は思うのだけれど、人々は女性を過小評価していると思うんです。ステレオタイプ的に男性のリーダーが当たり前だと。しかし、色んなリーダーがいていい、色んな考え方があっていい、これがダイバーシティですよね。
メルツCEOに伺いたいのですが、何故あなたは素晴らしいリーダーになれたと思いますか?どう分析されていらっしゃるのでしょう。
素晴らしいリーダーかどうかわからないけれど(笑)、まず、人の話に耳を傾けることだと思います。これは本当に重要。全て知っているというフリをしないこと。そして、優秀な人の集まったいいチームを作ること。私は、私の地位を狙っている人を恐れません。それは素晴らしいことだし、私が永久にできることでもないのですから。

そして、明日のリーダーを作ることも役目だと思っています。 人の話を聞き、顧客の声に耳を澄ませ、そしてそれらを企業にフィードバックする。 私がやってきたことの一つをご紹介しますね。部署ごとにタウンホールミーティングを行っているのですが、その時に皆、私に対して難しい質問をすることに遠慮していたりする。それを自由にできるように、ミーティングの前に、参加者から匿名で質問を提出してもらうことにしました。時に、変な質問があったりするのですが、そこで「どなたがこれを聞いたの?何故あなたはそんなこと聞くの?」と言わずに、きちんと答える。何故なら、コミュニケーションは非常に重要だからです。

私は、コミュニケーションを通じ、女性達に私の経験やどう壁を乗り越えたかなどの情報を継続的にシェアしています。彼女たちは、女性のリーダーたちが何をして、何を考え、どうやって困難を乗り越えたのか知りたいのです。ロールモデルが欲しいのです。
女性リーダーにとって最も必要なスキルは何だと思われますか。
フィードバックに対してオープンになること、つまり、フィードバックを貰うことを恐れないこと。時にそれは怖いことでもある。フィードバックを貰い、それを理解する。そして、どう課題や困難を乗り越えるか考えることだと思います。
では最後に、日本にいる今後リーダーになりたい女性達に向けてアドバイスをお願いします。
今、日本は女性にとって非常によい環境になりつつあると思います。安倍首相が掲げる目標の中にも女性活用が入っています。 そんな中で、まずあなた自身が持っているスキルをよく見ること、それがあなたのなさりたい仕事にマッチしているのかどうか。

もし、足りない部分があるのならば、それを補うようにしていく努力をすること。それは階段を上っていく上で必要なスキルも変わってくる。それを一つ一つ補っていくこと。そして、やりたいことを企業側に伝えることもためらわないこと。 そして、リラックスのために、時に不安をあなたが信頼する人に話すのもいいでしょうね。家族とか友人、猫とかに(笑)。
(笑)有難うございました!!
モニカ・メルツ
トイザラス アジア・パシフィックの社長として、日本、東南アジア、大中華圏およびオーストラリアにおいて拡大を続けるトイザラス・ベビーザラス店舗の運営、事業活動全般を統括。 1996 年バイス・プレジデント 兼 ゼネラルマネージャーとしてトイザラス・カナダ入社。 2000 年同社のプレジデントに就任。プレジデント在任期間中は、世界初となる『サイド バイ サイド ストア』(トイザラスとベビーザラスの併設型店舗)のオープンを成功させる。 2007 年 11 月、ジャスダック上場企業であった(2010 年 2 月まで)日本トイザらス株式会社の最高経営責任者(CEO)に就任 2011 年オーストラリア店舗も指揮下に。

同年、東南アジアおよび大中華圏へも所管拡大 トイザラスグループ入社以前は、ハドソンズ・ベイ・カンパニー、コストコ、衣料品チェーン、カタログ通販会社などで、マーチャンダイジング、ストア・オペレーション、サプライ・チェーン、マーケティングの分野で様々な職務を経験。在日米国商工会議所(ACCJ)、「CEO フォーラム」の共同議長を務め、 2012 年には、「ウィメン・イン・リーダーシップ」小委員会の共同議長としての活動をはじめとした同会議所への貢献が評価され、「リーダー・オブ・ザ・イヤー・アワード」を受賞。また、2011 年には、人材開発において卓越したリーダーシップを発揮したことに対して贈られる 「デール・カーネギー・インターナショナル・リーダーシップ・アワード」も受賞。その他、カナダの特定非営利活動法人スターライト・チルドレンズファンデーションの理事会メンバーや、カナダ小売審議会の副会長、同審議会の小売業政府関係委員会の委員長を務めてきた。 カナダ国籍。オンタリオ州グェルフ大学で学士号を取得
谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。 英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。 自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。 2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了。 現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中
http://www.yukatanimoto.com/
衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン
撮影協力:竹内佑