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■ 東京ウーマンインタビュー


曺絹袖さん(映画監督)

曺絹袖(ちょうきょんす) さん
「和ちゃんとオレ」映画監督 株式会社テレビ東京報道局ニュースセンター 記者・ディレクター
2000年テレビ東京入社 厚生労働省担当として、新型インフルエンザやB型肝炎問題等を取材。その後、医療や介護、社会保障問題を中心に多くの特集や特番を手がける。
超えていく人
~「和ちゃんとオレ」映画監督と語る、現在日本の介護~
映画拝見しました。今見るべき、とても大切な映画でした。長期間にわたって撮影なさったドキュメンタリーフィルムなのですね。
はい、元々はテレビ用に2008年と2012年に撮影したものを、主人公やテーマは同じまま、追加の撮影をして編集し直し映画にしました。テレビ業界でもそうなのですが、書籍や雑誌の業界でも、「介護」関連のネタは関心が低く、あまり多くの方の手にとっていただけないといわれています。

とはいえ今では、誰もが介護という経験を身近に感じるようになっていますよね。ご自身の親御さんが仮にそうでなくても親族にいらっしゃる、などです。

では何故、介護というテーマでテレビでいうと視聴率が低いかというと、介護に携わっている方ですともっと介護のことをよく知りたいけれど忙しすぎて時間がない、まだ介護に携わっていない方ですと、将来直面するかもしれない介護という世界を見たくない。

そういった心理も働いているようです。ですので本当は他人事だと避けてしまっている話題であるかもしれないけれど、映画という媒体にすることによって、少しでも考えていただく機会を提供できるのではないか、と考え映画にしました。
映画化されるにあたってのご苦労もあったかと思います。
そうですね。テレビのドキュメンタリー番組を作るのとは全く違いましたね。まず作り方については、映画にはCMがありませんから、映画の流れの中で印象的な構成で組み立てなくてはなりませんし、テレビでは尺が決まっていてその時間内で収める必要がありますが、映画は逆に何分でもよいわけですから制限のない中でどう自分で枠を決めて構成していくか、という作業でした。また、テレビは撮影して放送すれば終了、ですが、映画は製作してからがスタート。どこでいつ上映してもらうか、といったコーディネートも必要でした。
被写体の方といいますか、出演者の方にとっても非常にセンシティブな内容です。どのように映像を撮影なさったのですか?
おっしゃる通り、介護をなさっている野田さん(「和ちゃんとオレ」の主人公)にしてみると、忙しくてくたくたで休憩したい時にもカメラが回って気も休まらなくて、余計な手間もかかるわけです。ですから、その野田さんにどう距離をおくか、あるいはどう、ぐぐっと近づいてリアルな“何か”をあぶりだすか。最初の2008年の撮影の時には、カメラマンも私も、もちろん野田さんもぎくしゃくして迷いながらやっていましたが、長年のお付き合いや経験の中で見つけていったように思います。野田さんに聞いたら初回の撮影でものすごく疲れたとおっしゃっていました。
実際に映画では使用されなかった映像などもあったかと思います。何をベースに編集されていくのでしょう?
例えばテレビ番組の編集の場合、30分の尺の番組を作るために荒くですが厳選して編集し1時間半くらいにまとめます。で、そこから更にそぎ落としていって30分にまとめる。何度もずっと見ていると、だんだん「あ、この画面は伝えたいことに対して効いていないな」とか、「意味がない」とかが見えてきて、そぎ落とし、30分にまとめていきます。
そもそもどういった想いで、このフィルムを撮られたのですか?
やはり究極的には男性に見てほしいと思って作ってきました。「介護」という課題は、女性はどこかで覚悟ができているんですね。でも男性はそこまで覚悟ができていないんじゃないか、と思っています。例えば男性の場合、まず介護を始めると、家事からスタートしなくてはいけないんですね。でなければ、食事も食べさせてあげられないし、自分も食べられない。あるいは女性は大変でも、他の人に愚痴を言って晴らす、といったこともできますが、男性はそれができない。例えば近所のおばちゃんに買い物に行ってくるから5分だけみててくれない?といったちょっとした甘えもできない。

またいろんな男性の介護をみていると、男性の介護は女性と比べて本当に細かいんですね。適当ができない。毎日いつどういった排せつをしたかきちんとメモしてきめ細かく面倒をみてあげるから、実際にも長生きされる。あと昔は妻が夫の親の介護をしてくれていたかもしれませんが、最近では子どもの数も少なかったりしますから、妻は自分の親の介護をし、夫は自分の親の介護を自分でする。そういうケースも増えてきているようです。

また、息子という働き盛りの世代が介護するうえでの大変さ、というものもあります。例えば介護保険制度は、女性か誰かが自宅で介護をしていることが前提の制度になっていますから、デイサービスは夕方5時までしか受けられませんし、働きながら一人で介護をする、という制度設計になっていません。

女性が育児をする際には、育児休暇制度があったり、保育園では19時まで預かってもらえたりするわけですが、働きながらの介護はできませんし、では一時的に休もうかと思っても育児と違って終わりが見えないですから、一時休暇も1年なのか10年なのかわからないわけです。ですのでよっぽど男性自身に覚悟と事前の準備がないと、介護に直面した際大変ですから、そういった面でも男性に見ていただきたいな、と考えています。
そういった男性、息子さんが介護をなさる上で感じられている課題は何ですか?
色々な方を取材すると、男性が介護をなさっている場合には完璧に介護をなさっている方が多いんですね。もちろん、家族ですから、ある意味専門家より、その介護されている方のことをよくわかっていることもあるとは思います。でも男性の場合、例えばちょっとした時間であっても人に任せたり預けたりできないようなんですね。周りに助けを求められない。

野田さんの場合もそうだったようです。でもご自身が本当に大変でご苦労なさって行き詰って初めて、周りに助けを求められるようになったようです。介護の専門職に就かれている方にも同様のことをよく伺いますが、介護の現場も人数が少なくて大変なのはわかっていますが、現場のやりとりの中でどう「プロにお任せするしかない」と感じてもらうか、が重要なのだと思っています。
映画の中でドキュメンタリーフィルムとして野田さんの軌跡以外に、介護に疲れてご自身の親御さんを殺めてしまった方のインタビューもありました。あのストーリーを敢えて挿入した意図をお聴きしたいのですが。
本当に本当の元々の映画やドキュメンタリーを作った背景には、息子介護の方がご自身の親御さんを殺めてしまった京都の事件に端を発していたんです。何故あれだけ丁寧な介護を長期間にわたってしていた人が、自分の親を殺してしまったのか?

でも一方で、あれだけ真摯に介護をしていると、気持ちに一切の抜け道もなく、悲劇を招いてしまう、そんな危険性をはらんでいるな、とも感じたのです。息子介護の方には本当に丁寧に介護なさる方が多いし、完璧になさるが故に周りは手を差し伸べづらい。けれども、周りからも手を差し伸べて見守ってあげてほしい、そんな想いがあったと思います。
長年にわたって野田さんを撮影し、映画も作られて、個人や家族、または社会におけるこの問題の解決策は見えてきましたか?
難しいですね。介護や高齢化社会という日本のおかれている状況そのものが大きな課題ですので、全ての問題が解決できるような答えなんて見つかりません。ただ介護の現場をみてきて思うのは、従来の自宅で誰かが親を見てくれる枠組みではなくなってきているということです。

例えば、一人っ子だったり、結婚しない人も増えてきていますが、そういう家庭が増えてきている現状では、“働いている人が介護できる”、そういう環境や制度を整えることが必要と考えます。

大企業でも働き盛りの人が辞めることが問題になってきています。また、このドキュメンタリーを放送して、多くの男性から「実は自分も介護しているんだよ」と声をかけられました。男性社会で女性も大変ですが、男性も大変ですよね。男性自身もご自分の親の介護を理由に早く帰る雰囲気がない。働く側も、社会、企業側も意識を変えていかないといけない。

早く見て10年後は働きながら介護をする状況が当たり前になってきていると思います。私たちメディアの人間が言っていかなくてはいけないことなのだと考えています。
では最後に映画の中で一番印象的だった、あるいは伝えたかった言葉やシーンを教えてください。
2つあります。一番印象的なのは、和ちゃん(主人公野田さんの母親)が亡くなった第一報を野田さんが電話で受け、ソファの上で泣いている時、別の介護されている親御さんが認知症でその意味も理解されずごはんをひたすら食べている、あのカットですね。認知症という現実をリアルに突きつけられる、そんなシーンです。

言葉として印象に残っているのは、映画のチラシの言葉にもなっていますが、「頑張ってる人間がより頑張らないといけない 介護社会ってのは矛盾してるよね。」という言葉。率直で、野田さんらしい、リアルな言葉だと思います。

テレビで放映した時は、介護に興味のある方が実際に番組を見て、「僕も介護しています、励まされました。」といった言葉をいただいたりしたのですが、映画は、介護というワードではなくドキュメンタリー映画好きの方がご覧になってくださったりして、「全く知らない世界でした。考えなければならないと感じました」と言ってくださいました。是非、多くの方にこの映画をみていただきたいです。
本当にそうですね。ありがとうございました。

撮影協力:安廣 美雪 谷本有香氏 衣装協力:Otto オットージャパン
-レポート作成-
img谷本 有香 Yuka Tanimoto
経済キャスター/ジャーナリスト 
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。

英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名人たちへのインタビューは1000人を超える。

自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じく企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャルリーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテーターを務める。

2014年5月北京大学外資企業EMBA 修了
現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中
http://www.yukatanimoto.com/
衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン 撮影協力:安廣 美雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 


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