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■ 世界で活躍するウーマンたち


[中国最前線] 東 絵美さん(三井住友海上火災保険株式会社)

世界で活躍するウーマンたち
「中国最前線」
躍進続ける巨大帝国、中国。世界のビジネスリーダーや起業家たちも、このアジアの巨龍に熱視線を送り、いまや世界のビジネスは、この中国なくしては語れない。自ら北京大学EMBAで学び、かの大陸の目覚ましい成長を肌で感じてきたジャーナリスト、谷本有香が、中国で活躍する日本人女性を取材、[中国最前線]としてシリーズでお届けします。
東 絵美さん
三井住友海上火災保険公司
駐中国総代表処
総代表助理
念願の中国へ。しかし、数々の困難も
絵美さんとは2013年から北京大学EMBAでご一緒させて頂いたのですが、勉強が忙しくて(笑)、これまで詳しくお仕事の話をしたことありませんでしたね。改めて、現在どんなお仕事をなさっているのかお話を聞かせてください。
現在は、本社の出先機関である東アジア・インド本部の中国総代表処に所属しています。役職は、総代表助理であり、中国総代表の業務を補佐する立場にあります。
中国における御社では、どのような組織構造になっていますか?
わたくしの所属する本社出先機関としての組織(拠点所在地北京、大連、成都、青島)の他に、本社の100%出資子会社である三井住友海上火災保険(中国)有限公司があります。(拠点所在地上海本社、上海営業部、広東支店、シンセン営業サービス部、北京支店、江蘇支店、蘇州営業サービス部)
どのような違いがあるのですか?
この2つの組織の最も大きな違いは、営業行為ができるか否かです。中国総代表処は法律で営業行為を厳しく禁じられており、技術移転を含む政府当局対応、中国における様々な情報を調査・研究の上、関係者に提供すること、中国保険市場はじめ、中国事情に関する執筆活動を主要業務としています。
なるほど。今、絵美さんは中国に来られて3年目でいらっしゃいますね。そもそも絵美さんにとって、中国は初めての海外勤務ですか?
公私共に初めての海外生活です。入社後一貫して中国に駐在したいと希望を提出していました。その夢が2012年4月に遂に叶いました。
なぜ中国に行きたいと思われたのでしょう?
中国を強く希望した理由については幾つかありますが、一番大きな理由は、著しい経済発展を遂げる中国で保険事業に携わりたいという想いが強く芽生えたことです。当時、中国の保険市場について記載された経済誌を読み、いつか中国に赴任し、技術移転と言う形で日本の保険制度を紹介する仕事がしたい、そんな夢を抱くことになったのがきっかけです。
私自身もどうしても中国に行ってみたいという思いが強かったので、北京大学EMBAへの参加を決意したのですが、実際に来てみると、想像をはるかに超えることが多く、面食らうこともありました。絵美さんの場合はいかがでしたか?
まず、最初に感じたことは、旅行や出張で来る中国と、実際に生活してみる中国とでは、何もかもが違うと言うことです。これまで中国が大好きで何度も訪れてはいましたが、数日間の滞在とは異なり、日々発展を遂げる土地で生活すると言うことは本当に大変でした。業務面ではチャレンジングな仕事であり、やりがいもあり、仲間にも恵まれ、日々充実していましたが、生活面において慣れる迄、言葉には表現できないほど、大変でした(笑)。

中国は経済発展著しく、巨大な高層ビル群がそびえ、一目見れば大都会ですが、食生活、衛生面、公共マナー等、まだまだ発展の余地が残されている面がたくさんあります。待ちに待ち望んで来たわたくしでも、生活面で次々に起こる出来事に驚き、日本を恋しく思う日々が続きましたので、突然思いもよらずご赴任される方のご苦労やご心労はいかばかりかと思います・・・。
可能性に溢れた国、中国
仰る通りですね。でもまんざら悪い面だけではありませんよね
ええ。中国の素晴らしい面は、人々が皆、活気、躍動感、希望に溢れ、見ているこちらまで、生きていくために必要な強い力をもらえるところです。日本は最近でこそ景気が上向き加減ですが、長い間低迷しており、わたくしが就職をする際には超氷河期と言われていました。社会人になってからも、景気の良い話は少なく、誌面やニュースでも人員削減、工場閉鎖等、後ろ向きな内容が多かったように思います。

それが中国へ来てみると、いままで味わったことも、感じることもなかった強い力を感じます。例えば、所得向上に伴いマイカー保有者が年々増えていますが、週末の自動車ディーラーの店舗は人でいっぱいです。お客さまがひっきりなしに訪れている光景を良く見かけます。購買意欲、消費意欲の旺盛さに驚かされることもしばしばあります。
それは確かに中国に実際来てみなければわからない部分ですよね。活気や熱気というものを本当に感じますから。それにしても、絵美さんがいらっしゃる金融業界は、内需のイメージがまだあるようですが、中国でお仕事されてみて、具体的にどのように世界での可能性を感じますか?
損害保険業界に限った話になりますが、世界での可能性は大いに感じます。保険は目に見えませんし、色も香りもなく、有事の際に備えるものですから、有事が発生しなければ、その価値を実際に確かめ、感じることは難しいといった性質があります。

有事に備えた対応が事前に取れると言うことは、生活水準がある程度のレベルに達し、安定していると言えます。つまり発展途中の地域で、その日暮らすのが精一杯の状況で、有事に備えた保険を購入することは難しいと思います。
つまり保険のマーケットが成長するのは、人々の生活水準の向上と連動していると?
そうです。損害保険料規模を比較するために用いるものに、保険密度と保険深度というものがあります。保険密度とは、損害保険の普及率を示す人口1人あたりの年間保険料負担額のことで、保険深度とは、GDPに占める収入保険料の割合のことをいいます。2012年度における保険密度に関して、アメリカ2,239.20ドル、日本1,024.90ドルに対し、BRICS平均で128.82ドル、アジア平均で91.90ドルです。

保険深度に関しては、アメリカ4.52%、日本2.27%に対し、BRICS平均で1.508%、アジア平均で1.64%となっています。この数値から見ても、先進諸国と比べBRICS、アジア共に未だ普及率は低く、保険市場の発展には大きな潜在力があると言えます。
スズメバチが太ももに、鉄の棒が手の甲に!
中国における損害保険の市場は、今後も経済成長及び所得向上に伴い、更なる成長が期待できるということですね。ここまでお仕事の話を中心にお伺いしてきましたが、絵美さんはここ中国の生活の中で、とても興味深いというか、ありえないエピソードをお持ちだそうですね(笑)。
はい(笑)。まず北京に来て1ヶ月後の2012年5月末、地下にある外国人がよく利用するスーパーで買物をしていたところ、右大腿部に強烈な痛みが走り、その後すぐに痺れてきたんです。これは普通じゃないと足もとを見ると、何と巨大なスズメバチが右大腿部に刺さっていました。
スズメバチが刺さっている?!それでどうしたんですか?!
自分の手でスズメバチを引っこ抜いて、そのまま病院へ直行しました。するといきなりはいていたジーンズを下げられ、お尻に太い注射針を上からブスッと突き刺されました。日本では見たことも無い、衝撃的な注射針の刺し方に驚いて、スズメバチに刺された痛みを忘れる程でした。今でもその注射痕は残っています(笑)。続いて・・・
まだあるんですね?!
ええ(笑)。同じ年の11月頃、社宅の共用玄関から中庭に通じる扉を勢い良く開けたところ、こんどは右手の甲に激痛が走ったんです。何と、開ける側からは全く見えない扉の向こうに、鉄の棒が数本飛び出ているではないですか。通常なら保護シートを被せて人に直撃しないように安全対策を施し、工事中である旨、記載するなど、住民に注意を促すのですが、何もなく、扉を開けた先に待っていたのが鉄の棒。鉄の棒になど勝てる訳もなく、右手のこぶしを骨折してしまいました。

保険会社の社員ですから、街を歩く際でも、普段から様々なリスクを考えながら歩いていますが、考えもしないことが起こるんですね。
痛すぎるエピソードですね・・・。
北京へ来て、特殊なリスクを身をもって体験したことで、今ではお会いする方々との話題のきっかけになっています。これぞまさしく災い転じて福となす、ですね。
夢をあきらめずに挑戦し続ける
そんな体を張って頑張っていらっしゃる絵美さんですが、これまでのキャリアをどのように築いてこられましたか?
入社後2008年3月末まで、大阪にある自動車損害サポート部・保険金お支払センターに所属し、自動車事故の示談交渉及び保険金支払を主要業務としていました。大変厳しい業務内容でしたが、上司や同僚に恵まれ、充実した日々を過ごしていました。しかし、中国に赴任し、技術移転という形で日本の保険制度を紹介したいという夢がきっかけで、わたくしの会社人生は大きく変わっていきました。

当時の私は、世間で言われる一般職であったことから、中国へ赴任するためにはまず、全世界に転居転勤が可能な全域型総合職への転換が必要でした。当時、当社では一般職から全域型総合職への転換を実施するためには、まず決められたエリア内で転居を伴わない転勤を行うエリア総合職への転換、その後全域型総合職へ転換する必要がありました。

2006年にエリア総合職へ転換、その後2008年に東京へ異動後、海外事業に4年間携わり、2012年に全域型へ転換し、かねてからの夢であった中国(北京)への辞令を頂きました。この間のハードルは決して低いものではありませんでしたが、上司・同僚に支えられ、一つずつ乗り越え、中国へ来ることができたのです。
ずっと描いてきた大きな夢を叶えられたということですが、今後はどのような展望をお持ちでしょう。
更に多くの女性がグローバルに働ける環境を整えていくことが使命だと感じています。国策として、女性活用・女性活躍推進が掲げられ、今後益々女性の活躍できる場が増えて行きそうですね。まずはわたくし自身、中国での任務を全うし、将来的には会社全体の経営戦略を練る部門や、人財を育てる部門でも経験を積んでみたいと考えています。

それから、自身のライフプランの中に全く無かったことなのですが、家庭も仕事も大切にしながらアグレッシブに活動される谷本さんと出会い、仕事と家庭の両立についても、今後のライフプランの一つとして考えてみようかなと思っています。自身の考え方やライフプランに刺激や変化を与えてくれる方との出会いって本当に大切ですよね。
ありがとうございます。本当に出会いって大切ですよね。
では最後に、これからグローバルに働きたい女性に向けてメッセージをお願いします。
現在の私は、これまでの会社人生の中で、最高に充実した日々を過ごしています。日本の保険制度紹介、中国市場の調査・研究等業務内容は多岐に渡りますが、仕事を苦に感じたことはなく、中国事業に携われる喜びを日々感じています。グローバルに働きたいと思う以前と以後で大きく変化したことは、仕事をする上で地域制限を受けること無く、世界の舞台で保険事業に携われるということです。

これからグローバルに働きたいと思われている女性の皆さんにお伝えしたいことは、夢を抱き、諦めることなく、何年かかったとしても果敢に挑戦し続けて下さい。そうすればきっと、夢を抱く皆さんをいつも支えてくれる上司、諦めかけた時いつも助けてくれる同僚、家族、友人など、多くの方が皆さんの後押しをしてくれることと思います。

わたくし自身、夢を叶えるチャンスを与えてくれた会社に対し、言葉では表わせないほどの感謝の気持ちでいっぱいです。心の温かい人で溢れるこの会社で夢に向け挑戦できることは、本当に幸せなことだと思います。今後、グローバルな舞台で活躍される女性が、一人でも多く増えることを願っています。
ありがとうございました。
東 絵美さん
三井住友海上火災保険公司 駐中国総代表処 総代表助理
大阪市出身。神戸女学院大学音楽学部音楽学科卒業。 2002年三井住友海上火災保険株式会社へ入社後、保険金支払部門に6年間所属、その後 2008年より海外部門で主に中華圏を担当し、2012年より北京にて現職。現在は、保険技術の移転をはじめとし、保険市場のみならず、政治、経済、個別産業等、幅広く調査・研究を重ね、内外への情報発信を行っている。
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谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。 英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。 自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。 2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了。 現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中
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