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■ 音楽の世界を彩る女性たち


歌が好き!

歌が好き!

竹多倫子さん
ソプラノ歌手
2013年度日本音楽コンクール優勝、おめでとうございます。
竹多さん:ありがとうございます!何度言われても嬉しいです。
優勝が決まった時はどんなお気持ちでしたか?
竹多さん:言葉にできません・・ただただ込み上げてくるものに任せて、わあわあ泣きました。夢のような気分の中で、泣きながら最初に湧き上がってきたのは感謝の気持ちと喜びでした。支えてくださった先生や母も結果発表の場にいましたので、先生や母の顔を見たときは、これまでの沢山の苦しみや努力を、共に歩んでくださった時間が全身を駆け巡るような感じで、また泣いてしまいました。
そうでしょうね。言葉が見つからない感じはわかるような気がします。
竹多さん:どうしても歌い手になりたいという強い気持ちの反面、いつも自分に自信がなく、練習で思うように歌えない時などは「本当にこれでいいのだろうか」迷うこともありました。 ただただ歌う事が大好き。悩んでも悩んでも、やはり歌っていました。 続けてきてよかったと思いながら、支えてくださった先生や友人、家族に感謝しています。
竹多さんにはここセントレホールで何度も演奏いただいています。 応援させていただくアーティストが大きな賞に輝いて、本当に嬉しく思います。
竹多さん:ありがとうございます。この南麻布セントレホールはおしゃれで素敵な空間ですし、ご来場くださるお客様皆さんが温かく演奏家を包んでくださるので、お客様との一体感が生まれる空間だと感じます。

また鈴木プロデューサーがとても優しくご指導くださるので安心して演奏ができるホールです。鈴木さんはあたたかい暖炉のような方だと思います。人が集まり、そして鈴木さんを通して人と人のご縁が繋がっています。

日伊声楽コンコルソで優勝した翌年、初めてここで演奏させていただいたときから、いつも鈴木さん、福田さんが優しい笑顔で迎えてくださるので安心します。

演奏会もそうですが、鈴木さんと福田さんにお会いできることも私の楽しみの一つです。そういったお二人の雰囲気がこのホールにも反映されているように感じます。ホール関係者のパーティにもお声がけいただいて楽しい思い出ばかりで、ここにくるとホッとします。
受賞後は多忙な毎日をおくられていることとお察ししますが、いかがですか?
竹多さん:初めて歌のお仕事でこんなに忙しい日々を過ごさせていただいています。 沢山の方に歌を聴いていただき、沢山の嬉しいお声をいただけて、音楽を通して全国の方にお会いできることを幸せに思います。
受賞前と変わったことはありますか? 
竹多さん:明らかに声が変わりました。声がよく出るようになったのです。不思議です。私の先生にもそれを褒めていただけてとても嬉しいです。優勝したという自信がそうさせたのか、心の変化が歌の変化にもこんなにつながるとは。面白いですね。何でも挑戦して経験することが、一番自分を成長させてくれるのだと思いました。
竹多さんの素晴らしい声質は、ご両親から受け継がれたのでしょうか?
竹多さん:母はとても歌が上手で、小さいころから母の歌を聴いて育ちました。歌が大好きでいつも家事をしながら歌っていました。料理、洗濯、庭掃除、朝ごはんを作りながらも歌っているので、朝の目覚めは時計ではなく母の歌声。とにかく家の中は常に母の歌声が聞えていました。

また、幼稚園の頃から母に連れられて沢山の舞台を観に行っていました。色々な音楽や舞台に触れて、目を輝かせている演者の皆さんを見て、「私もこうして舞台の上で輝いてみたい!」と思い、夢中になって見入っていました。 そして家に帰ると自分の部屋で音楽をかけて、観て感じたばかりの興奮をそのままに真似をして踊ってみたり、主人公になったつもりで演じながら歌ってみたり。そうして音楽とともに、妄想の世界に入るのが大好きでした(笑)
幼い竹多さんが目に浮かぶようです。夢見心地でにこやかな感じは、今と変わらないのでは?
竹多さん:変わっていないと思います。基本的に妄想型です(笑) 今思えば小さい時から音楽にのせて、自分の想像を膨らませる時間が好きでした。中学2年生までピアノを習っていて 先生と音楽が大好きで通っていました。練習以外でも、感情が高ぶるとピアノに向かっていました。言葉では表現できない、身体でも表現できない感情が湧き上がると、ピアノに乗せて自分の心を解放させていたのだと思います。喜怒哀楽の全ての感情です。

母はいつも私のピアノの音色を聴いているので、「今日は良いことがあったのだな。」とか「何か嫌なことがあったのかな・・」などが分かったと言います。音楽で自分を表現することを何気なく、自分でも気づかずにしていました。

オペラの出会いは、中学時代に学校の演奏会で盲目のテノール歌手の新垣勉さんが歌ってくださったときです。曲目は「さとうきび畑」。新垣さんの声量と初めての生のオペラの声、全身の鳥肌が立ち、勝手に涙が流れたことを今でもはっきり覚えています。震えるほど感動しました。
成長なさる過程で、生活の中でごく自然に音楽を感じていらしたのですね?
竹多さん:はい、そう思います。音楽を感じる力は生活の中で自然に育んだのだと思います。
そして迷わず音大に進まれるのですね?
竹多さん:いえ、実は音大に進むことを決めたのも、きちんと勉強を始めたのも高校2年生からでした。それまではクラスは理数系。高校入学時までは医者になると決めていましたが、だんだん心の奥にある小さいころからの音楽の夢や憧れが押さえきれなくなって、悩んで悩んで心に決めて、音大に行かせてください!と両親に頼みました。
音楽を続けていく上で、どんなことに気を付けておられますか?
竹多さん:やはりのどを大事にしています。のどを痛めたり風邪をひいたりするのは就寝中が多いので、寝る前の保湿活動はかかせません(笑)、タオルなどを濡らしてベッドの周囲、顔周りにずらっと干して、マスク、ネックウォーマーをつけてやっと寝ます。寝るまでが大変。

また、公演を控えているときは演技のため、歩き方や立ち居振る舞いの練習を何気なく。街を歩きながら伯爵夫人になりきって歩いたりします(笑)。 頭を上下させない、背筋を伸ばして腰から歩く、「私はディーバ!」と思いながら。やはり妄想系です(笑)

あと、とても頑張って気を付けていることがもうひとつあります。元来おしゃべりで友人と会った時などはついつい楽しくて時間のたつのを忘れて話に夢中になることがあるのですが、公演の稽古の時期になると友人とは会わないようにしています(笑) おしゃべりでのどを使いすぎないように、これは結構つらいものがあります。
最近の音楽生活の中で、一番心に残っていることは何ですか?
竹多さん:今年の3月に、滋賀県の「びわ湖ホール」で、小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト「フィガロの結婚」伯爵夫人役のカヴァーキャスト特別公演で伯爵夫人を演じました。稽古・本番期間の1か月は、まさに夢のようでした。 朝起きてすぐに楽譜に向かい、食事中も稽古場に向かう電車の中でも、歩いていてもお風呂の中でも、寝る前も朝から晩まで「フィガロの結婚」のことだけしか考えていませんでした。

オペラの世界に浸りきった至福の時間、その間のすべてが私には刺激でした。 特に、小澤さんの音楽にこれほど密に触れられたことはわたしの宝物です。タクトから奏でられる音楽はこの上なく美しく私の心に響きましたし、その音楽を寸分漏らさず留めおきたくて夢中でした。
それは羨ましい経験ですね。その幸せな時間にどんなことを得られましたか?
竹多さん:やればやるほど、やらなきゃいけないことが見えてきて、その大きさに驚いています。 演奏家になるということは、ただ楽しく音楽を演奏するだけではなく、音楽が仕事になるわけですから、苦しい時やつらい時も沢山あります。日々の練習は本当に職人のようです。 日々挑戦と反省の繰り返し。それでも、音楽を続けたいと思えるのは、やはり音楽が与える影響の大きさを知っているからだと思います。

今の自分にどれだけのことができているかはわかりませんが、今まで私に沢山の感動を与えてくれたあの瞬間を、一人でも多くの人に感じてもらえることができたら。。そういった気持ちが自分の技術の向上にも繋がりますし、演奏家をして生きていきたいと思う原動力になっていると思います。

やはりお客様が私の歌を聴いて涙してくださっていたり、「感動しました」とお声をいただくと私も感動します。 音楽を知れば知るほどその奥深さに気づき、心の琴線に触れるような音楽を創ってくれた作曲家たちにも、いつも感動しています。
その作曲家の中で、一番のお気に入りは?
竹多さん:一番好きな作曲家はヴェルディです。 音楽と歌詞の意味が綿密に構築されていて、楽譜を見てヴェルディが何を表現したいのかを考えるとワクワクします。
最後に、将来の夢をお聞かせください。
竹多さん:痩せること・・というのは嘘(笑) 今の自分を超えることが日々の目標です。 ヨーロッパの舞台に立ちたいです。特に蝶々夫人で!
竹多倫子さん
石川県出身。愛知県立芸術大学音楽学部声楽科卒業。東京藝術大学修士課程オペラ科修了。 2011年、第47回日伊声楽コンコルソ第1位、合わせて歌曲賞受賞。2013年、第82回日本音楽コンクール第1位、合わせて岩谷賞受賞(聴衆賞)、E.ナカミチ賞受賞。2012年、小澤征爾音楽塾オペラ「蝶々夫人」蝶々夫人役セカンドカヴァーに選出される。2013年、第12回北陸新人登竜門コンサートにて、井上道義指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢と共演。サイトウ・キネン・フェスティバル松本オペラ公演「子どもと魔法」カヴァーキャスト。小澤征爾音楽塾オペラ「フィガロの結婚」伯爵夫人役カヴァ―キャスト。特別公演に出演し好評を得る。 オペラでは、「ファルスタッフ」アリーチェ役、「カルメン」フラスキータ役、「ジャンニ・スキッキ」ラウレッタ役など多数出演。読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢、セントラル愛知交響楽団など、様々なオーケストラと共演し好評を得る。平成26年度文化庁新進芸術家海外研修生としてイタリア留学予定。二期会正会員。
スタインウェイ会最高顧問 鈴木達也氏にインタビュー
昨年(2013年)の日本音楽コンクールの受賞記念パーティに、招待されていらっしゃいましたが、竹多さんはパーティ会場でも泣いておられたそうですね。
鈴木氏:はい、彼女のスピーチはとても印象的でした。ひたむきに音楽の勉強してきた人の喜びがよく伝わりましたし、大変なこともあったでしょうがよくここまで頑張ったね、と思わず褒めてあげたくなります。 竹多さんはとても可能性にみちた演奏家です。先ほど受賞後に声が変わったと言っておられましたが、まさにコンクールで賞をとったことで竹多さんが一歩前進したのですね。 そしてそれは今後の伸びしろを示しているのです。素晴らしい。本当に良い声質の持ち主です。
鈴木さんから今の竹多さんにお伝えしたいことは何ですか?
鈴木氏:イタリアの留学はすでに決まっていますが、それまではコンクール優勝者としての仕事に励みましょう。常にご自身が音楽に目覚めたときの感動を忘れず、支えてくれる多くの方々の感謝の心を持ち続けてください。感謝と感動する心を竹多さんが持ち続けている限りは人々に感動を届けられます。そしてそれが竹多さんの音楽の原点ですね。特にお母様への感謝は忘れずに。困ったときはぜひ僕に相談してください。僕は人生相談もしています(笑)
鈴木 達也
スタインウェイ会最高顧問
1938年東京生まれ。1962年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。68年米国ロサンゼルス米国現地法人ヤマハ・インターナショナル・コーポレーションへ出向。78年同取締役副社長。84年帰国、ヤマハ株式会社秘書室長。86年(財)ヤマハ音楽振興会専務理事。89年ヤマハ株式会社取締役、米国本社ヤマハ・コーポレーション・オブ・アメリカへ出向、同代表取締役社長。92年帰国、ヤマハ株式会社顧問。97年スタインウェイ・ジャパン株式会社代表取締役社長。2008年より会長、相談役、スタインウェイ会会長、2010年よりスタインウェイ会最高顧問、現在に至る。
福田 明子
ホールのオープンとともに管理運営に携わっています。クラシック音楽の演奏会をこよなく愛し朝から寝るまで音楽づけの毎日。たゆまぬ努力を重ねるアーティストの魅力的な人間性に触れる機会が増えるにつれ、音楽のもたらす力を実感している毎日です。
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