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■ 音楽の世界を彩る女性たち


ショパンを追い求めて

ショパンを追い求めて

浦山純子さん
ピアニスト
鈴木達也さんが浦山純子さんの後援会長をされるきっかけとなったのは?
浦山さん:ロンドン留学中にスタインウェイアーティストとなりましたが、その時同社日本支社長をなさっていた鈴木さんからとても心温まるお手紙を頂戴したのです。「日本にお越しの際はぜひお立ち寄りください」という一言にとても励まされ、ちょうど帰国を控えていたこともあり日本に到着してほどなく鈴木さんに会いに行きました。そしてスタインウェイ会全国大会で総勢270名のスタインウェイ関係者に私を紹介してくださいました。
その後、結婚、出産を経て尚活躍中の浦山さんですが、ご主人との出会いをお聞かせくださいますか?
浦山さん:主人のクリニックにスタインウェイのピアノを購入しようとホームページを見ていたそうですが、そこにスタインウェイアーティストとして出ていた私を見つけ、後援会に入会してきたことがきっかけです。
浦山さんのファンだったわけですね。ピアノを弾かれるのですか?
浦山さん:主人も小さい頃からピアノを習い医学か音楽かで進路を迷ったそうです。 小学校の卒業文集では“会いたい人”の欄に「ショパン」と・・・(驚)
それはすごい。小学生でショパンの音楽性にすでに魅せられていたのですね。
浦山さん:私でさえ小学生でショパンに会いたいとまでは考えもつきませんでした(笑)
出産を経て変わられたことはありますか?
浦山さん:自分にこんな感情があったのかと世界が広がり、音色もより多彩になったような気がします。以前は弾くことが当たり前でしたが、ピアノを弾く悦びや感謝が数倍増えたこと、ピアノの前に座ると以前より深い愛おしさを感じます。

育児の中で、一人になるピアノ練習の時間は何にも変えがたい尊いもので、さらにステージ上が一番自由になれる場所と言ってもいいほどです。
浦山さんは素晴らしい演奏家としてご活躍ですが、幼いころから音楽の道を歩まれてご自身の音楽にたいするお気持ちにはなんというか、起伏はありませんでしたか?
浦山さん:大学生の頃は言葉にならない「閉塞感」のようなものをいつも感じていました。 コンクールで賞をいただいても、「これでいいのだろうか、何かが違う」という正体のない疑問がつきまとって悩んでいました。

その頃の私を支えてくれたのはショパンです。ショパンはいつもそばに居て私をなぐさめてくれました。心を打つ彼の美しいメロディは思春期の私の心に唯一届いたと思っています。なんだろう、この歌い回しは…どこから生まれるのだろうこの旋律は…と湧き出るように「ショパンをもっと知りたい」とずっと思っていました。

大きな弾みがついたのが、ポーランド人ピアニスト、ステファンスキ氏のショパンリサイタルを聴きに行ったことです。今まで聴いたことのないほどの素晴らしいショパンに感動、感動。「なにこれ、すごい。ポーランドへ絶対に行きたい。ショパンに触れたい。ショパンに会いたい。」心配する両親にやっとOKをもらい念願のポーランドへ留学し、ステファンスキ氏のもとで学びました。
お訊きするまでもないことですが(笑)素晴らしい留学生活はいかがでしたか?
浦山さん:先生のレッスンを1回受けただけで、「ああ来てよかった」と思いました。 技術的な点でも「目からうろこ」が山のようにあり嬉しかったことももちろんですが、一番大きく感じたことは「訴える力や表現力」の指摘です。

「あなたは何が言いたいの?」と、私の音楽性にずばり切り込んでくる・・・そんな指導に大きな喜びを覚え「私が渇望していたことはこれなんだ」と。言葉にはできないけれど自分が求めていたもの、表現したいものが分かったような気がする、全てが自分の音楽を待っていてくれたような、そしてそれを体全体で感じている自分を歓迎してくれているような気がしました。やっと思い切り息ができる。
94年に行かれたそうですが、革命後間もないですね。
浦山さん:一緒に勉強するポーランドの友人達と自分とのそれまでの環境の違いに驚き、ショックを受けました。ピアノの状態もおよそ想像がつく厳しい環境の中で音楽の勉強を続けている彼らに出会えたことも大きな糧となりました。地に足をつけて、決して大事なものを見失わない強さ。

音楽をとりまく環境以前に、人間として命を守り心豊かに生きることが、どれだけ大切なことであるかを心から実感しました。本当に大切なものは心の中にあるのです。実際に彼らの音楽が人を感動させる力はものすごいものがありました。
留学以外に音楽人生で心に残るものはありますか?
浦山さん:高校の頃だったと思いますが、不思議な暗示的な夢をみたこと。「あなたはユダヤ系のロシア人にレッスンを受ける」ポーランドの後ロンドンに渡りますが、まさに生涯の恩師ともいえるアロノフスキ先生に出会いました。

ユダヤ系ロシア人である先生に教えを乞い、高校生のころの夢を思い出しました。不思議でしょう?ロンドンには9年住み、帰国後も毎年レッスンを受けにロンドンに行っています。 かれこれ18年になるのですね。
今でも?
浦山さん:はい、音楽の勉強とともに先生に会うことが私自身のビタミンになっています。先生の先生はラフマニノフと大親友だったそうで、リスト、チェルニー、ベートーベンと系譜をたどると、「偉大な作曲家に少しでも近づきたい、彼らの精神を少しでも受け継ぎたい」と尽きることのない夢や希望が溢れてきます。
浦山さんの今後の夢、もしくは目標を教えてください。
浦山さん:大学生の頃、今は亡き恩師に「あなたは自身の力を40%も出していない」と指摘されたことがあります。この言葉を胸に、楽譜の奥にある様々な隠し絵を探しながら、より高い芸術の世界を一生追い求めていきたいです。

探検家のように!そしてもうひとつ、「ショパンに会いたい」と小学校の卒業文集に書いた主人に、私の音楽を通して本物のショパンに会わせたいですね(笑)
浦山純子さん
ピアニスト/スタインウェイ・アーティスト
桐朋学園大学音楽学部卒業後、ポーランド国立ワルシャワショパン音楽院に留学。 1995年ラジヴィーウ国際ピアノコンクール優勝、及び最優秀ショパン賞(ポーラン ド)、1998年ポリーノ国際ピアノコンクール最高位(イタリア)をはじめとする数々 の賞を受賞。1996年よりロンドンを拠点とし、名門ウィグモアホールにてデビュー。ウラディミール・アシュケナージ指揮フィルハーモニア管弦楽団との共演ほか、ヨーロッパ各国でソロリサイタル、コンチェルトから室内楽に至るまで幅広く活動する。 2005年に帰国、多彩な企画で演奏活動を展開し、スタインウェイ・ジャパン(株)の『Young Virtuoso Series』のアーティストとしても全国各地でコンサートを行うほ か、国内外で教育・福祉関係のためのチャリティ活動にも力を入れている。また、2009年よりスタートさせたリサイタル・シリーズ「心の旅への誘(いざな)い」 は、「奥の細道」から着想された『芭蕉の奥の細道による気紛れなパラフレーズ』を 取り上げ、2012年には本作品の全曲録音CDとしてソニー・ ミュージックダイレクトより発売、文化庁芸術祭に選出される。2014年6月に5枚目のCD『ショパン:ピアノ協奏曲第1番&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番』をリリース。
浦山純子オフィシャルサイト
スタインウェイ会最高顧問 鈴木達也氏にインタビュー
浦山さんにお会いした時はどのような印象でしたか?
鈴木氏:彼女はご覧の通りとても華やかなイメージを持つピアニストです。 舞台に出た瞬間から観客の目と心をひきつける魅力をもっていますね。それは演奏にもあらわれており、スタインウェイ会の時もそうでした。演奏が終わり来場者に挨拶をしてまわっていると思ったらすでにコンサートがいくつか成立していましたのでさすがです。 同時に僕も後援会長を引き受けることになっていました(笑)
多くの演奏家にサポートを惜しみない鈴木さんは 浦山さんのこれまでの音楽人生をどう思われますか?
鈴木氏:全てのピアニストのみなさんは本当に一生懸命自身の音楽と向き合って日々練習を重ねておられます。僕は現在はスタインウェイ会の最高顧問という立場でピアノ業界に携わっておりますが、それ以外の時間をほとんどすべて若いアーティストのためにとってあります(笑)

ピアニストはやはり女性が多いのですが、女性ピアニストのすごさは、まず命にかかわる生活を自分で支えていることがあげられると思います。浦山さんがそうであるように日に何時間も練習を重ねつつ家事育児をやってのけるのですからすごいです。やはり日々の生活をきちんと送ることは命を大事にしていることにつながり、生きることの根幹ではないかと思います。そしてそれらが演奏に反映され豊かな表現につながっていくと思います。

浦山さんは、スター性のあるピアニストですし、演奏会では会場全体を自身の音楽でつつみ観客を魅了します。これはまさに日々の生活を大事にし、家族や生活そのものを愛し、周囲に感謝をする心をわすれない姿勢が根っこにあると思います。 素晴らしい。
具体的にアーティストのサポートはどのようなことなさるのですか?
鈴木氏:音楽の普及、アーティストの育成についてほとんどしております。 演奏会の企画や、その支援、アーティストの招聘、海外渡航のアドバイスや悩み事の相談も引き受けております(笑)

ここセントレホールでは2012年3月よりランチタイムコンサートをプロデュースしており、僕が応援するアーティストたちのご協力をいただき、毎週上質なクラシック音楽をコミュニティにお届けしています。このコンサートは今春で100回を迎えます。これを記念して多くのランチタイムコンサートアーティストから10名のアーティストにご出演いただくガラコンサートを5月16日に渋谷のさくらホールで開催します。

いままでこのコンサートをともに支えてくださったアーティストやその関係者の皆様、そして毎週のようにお運びくださるお客様、すべてに感謝をこめて「Gratitude 100感謝」と いうタイトルにしました。心からの感謝を込めた素晴らしいコンサートにします。 浦山さんもご出演くださいますよ。
ありがとうございました。このコンサートは実行委員会の皆様すべて鈴木会長の大学の後輩だそうですね。精鋭ぞろい。きっと素晴らしいコンサートになることと思います。楽しみです。
鈴木 達也
スタインウェイ会最高顧問
1938年東京生まれ。1962年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。68年米国ロサンゼルス米国現地法人ヤマハ・インターナショナル・コーポレーションへ出向。78年同取締役副社長。84年帰国、ヤマハ株式会社秘書室長。86年(財)ヤマハ音楽振興会専務理事。89年ヤマハ株式会社取締役、米国本社ヤマハ・コーポレーション・オブ・アメリカへ出向、同代表取締役社長。92年帰国、ヤマハ株式会社顧問。97年スタインウェイ・ジャパン株式会社代表取締役社長。2008年より会長、相談役、スタインウェイ会会長、2010年よりスタインウェイ会最高顧問、現在に至る。
福田 明子
ホールのオープンとともに管理運営に携わっています。クラシック音楽の演奏会をこよなく愛し朝から寝るまで音楽づけの毎日。たゆまぬ努力を重ねるアーティストの魅力的な人間性に触れる機会が増えるにつれ、音楽のもたらす力を実感している毎日です。
企画・取材
南麻布セントレホール
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