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■ 東京ウーマンインタビュー


経験なし・実績なしで保育事業へ新規参入! 想いを具現化する社会起業家

経験なし・実績なしで保育事業へ新規参入!
想いを具現化する社会起業家

井上 弘美さん
株式会社サバンナ社会起業隊
代表取締役社長
特別なキャリアや専門的な知識からではなく、“想い”から周りを巻き込み、「社会変革」に取り組む起業家がいます。彼女の動機はいたってシンプル。「目の前に困っている人がいて、私にはそれを解決することができる」から。経験も実績もなく、構想から4年で導かれるように保育事業展開に至った、社会起業家 井上弘美さんのナチュラルな軌跡を伺いました。
起業のきっかけを教えてください。
そもそも起業するつもりなんて、全くありませんでした。会社に勤めてはいましたが、結婚後はずっと専業主婦でしたし、特段のキャリアがあったわけでもありません。ただ40代半ばを過ぎた頃、子どもも大きくなり、その後の人生の生き方について考えていました。

でも私は、キャリアがあるわけでも、何かやりたいことがあるわけでもない。ふつふつと考えていた頃、テレビでロザンナ・ハガティさんという、ニューヨークでホームレスの問題にあたっている社会起業家のドキュメンタリーを見たんですね。彼女はふとしたきっかけでホームレスの方達が置かれている現状を知り、何か手は打てないのかと役所に掛け合ったのですが、役所は何も対処してくれない。それであれば自分で解決しようと決断し、近くにあり廃業していたホテルを改装し、そこに住居と社会復帰のための教育プログラムを準備した、そんなエピソードでした。

そこに困っている人がいて、それを知った誰かが、資金の背景ではなく、知恵とアイデアで課題を解決していく。そんな社会起業家の姿を見た時に、「自分にも何かできるんではないだろうか」と思ったことがきっかけでした。 何故ならば私は、問題を解決することが好きなんですね。儲かりそうなビジネスを考える、何か大きなことを仕掛ける、そんなことは想像もできないし、むしろ興味はないとも言えるのですが、“目の前にある問題を、自分のアイデアで解決する!” そのことにとても惹かれました。
“問題解決が好き!” 面白い切り口ですね。
そこからは、すぐ行動です。ネットで「社会起業家」なるものや「社会起業大学」などを調べ、すぐに学校へは体験授業への参加申し込みをし、入学も決め勉強を始めました。でも、その時点でもまだ、自分がどのような社会問題にあたればよいのか、わかってはいませんでした。ただスクールでは、多くの社会起業家と言われる方々、例えば障がい者雇用で有名なスワンベーカリー(運営:株式会社スワン ヤマト運輸の特例子会社)の海津社長(当時)や株式会社アイエスエフネットの渡辺社長の話を聴く機会が数多くあり、ますます自分の世界が拡がるような思いを持ちました。

特に、障がいのある人と障がいのない人、つまり健常者が一緒に働く現場は、大変な面もあるけど、その分ドラマがあり、人間的にももの凄く向上するのだという話を聴き、おおいに刺激をもらいました。 今の世の中では、障がいを持っている方とそうでない方があたり前に一緒に働ける、そんな環境になっていないのが現状だと思います。

それは社会保障の観点など、経済効率だけではなく、様々な背景・側面があるからですが、人間成長といった素敵なドラマがあり、働きたくても働けず、自分の居場所のない方にもその場所を提供できる、そんな取組はもっとあった方がいいし、そのためには何かパブリックな場所で障がい者と健常者が共に過ごせる、共に働ける場所を作っていくことからしか進まないんじゃないかと考え、保育園事業に思い至りました。

障がいを持った子供もそうでない子どもも一緒に遊び過ごせる場所、スタッフも同じように、障がい者に限らず、高齢者のスタッフがいたり、と多様性のある場所。子どもは育てたことがありますので、保育園というのは感覚的にもしっくりきました。
そこからは順調に、事業化へ?
いえいえ、全く順調ではなかったです。ただ、頑張ったから実現できた、というわけでもありません。むしろ、運よく導かれるように保育園事業をスタートできたように思います。 実は当初、保育園事業を調べたところ、何の実績もない、小さないち民間会社が簡単に参入できる業界ではないという結論に至りました。

当時、保育園事業の収支を計算すると、国からの助成金がないと経営が成り立たない構造だったのですが、会社としてその助成金をもらおうとすると、実績が問われる。あるいは新規参入であれば資本など背景の充実した大手に軍配があがる現状。ただ、事業所内保育園であれば、たくさんではないけれども厚生労働省から助成金も出るので、その切り口で事業開発できるだろう、とおっしゃるコンサルタントがいて準備を始めたのですが、何と事業スタートする年度にはその助成金が打ち切られてしまったんですね。それで万事休す、といった形で。

ただ当時、障がい者雇用をするならば経験があった方がよいだろうと、スクールでいただいたご縁で障がい者雇用に取り組まれているある会社でフルタイムのパートで仕事をしていました。20年も専業主婦だった自分が、朝9時から夕方6時まで仕事するという、そのことだけで凄いことだったんですが、それまで障がいを持っている人と接した経験がなかったので、毎日、自分と全く違う人たちと一緒に仕事をするのが楽しくて。まるで行動が予測できないというか、反応も新鮮で。毎日毎日、本当にエキサイティングでしたね(笑)。

当初は2,3か月経験を積むつもりが、助成金が打ち切りになったことや仕事が楽しかったこともあり、結果2年3か月働きました。もちろんその間、保育園事業も頭の中にありましたが、2年経つ頃また厚生労働省の助成金がスタートし、働いていた親会社の社長から、事業所内保育をスタートするから私にやってみないかと提案をいただきました。そして保育園経験も実績もないのに、資金も全部出してもらって、2013年8月から事業をスタートさせました。
井上さんの2年3か月の働きを買ってもらった?
もちろん、そういった面もあるかもしれませんが、2年3か月の間、私が特別に優れた仕事をしたとも思えません。親会社は、働きたくても働けない方に職場を提供し続ける、雇用創造会社といった使命も持っているので、障がい者雇用を実現したい、そのために勉強のため働かせてほしい、とお願いし働いていた私のチャレンジ精神を買ってもらったのでしょうね。
今でこそユニクロやスターバックスなど障がい者雇用の話もありますが、社会的使命を帯びています。
私も経験をしてわかったのですが、ひとえに障がい者といってもその内容は様々です。知的にしても、精神にしても、どのカテゴリにしても、人それぞれできること、できないことは千差万別。もちろんどうやっても、やっぱり働けない人もいる。全く働けない人は、国がきちんと保護することが必要ですが、働ける障がい者というのはもっともっとたくさんいて、働けるし、働きたいのに働ける場所がないという状況はとても残念です。それぞれができることは限られていて異なるのだけれども、健常者でも得手不得手があるのと同じように、ある意味個性なのではないでしょうか。

企業の経済合理性に合わせて、「朝の9時から17時まで働くのが絶対である」、と人を企業に合わせるのではなく、人にあわせて仕事を設計すればよい。私自身も、時間で縛られるのが嫌いですし、例えば文章を書くことが好き、得意、という人がいるならば、そのことだけを業務にして自宅で専門的に働くという選択肢も、もっとあっていいと思います。画一的なシステムだけに則らず、人やその個性に応じて、もっと柔軟な働き方があってもいいのではないでしょうか。
開園されて1年ですが、実際に事業をスタートしてどうですか?
実際に事業所を立ち上げると決まってからは、苦労の連続でした(笑)。 開園8月に向けて、1月頃から双方準備を始めたわけですが、親会社も全く新しい分野への新規参入になりますし、私自身も企業で働いていた際の仕事経験が豊富だったわけでもないわけですから。契約締結一つとっても、対企業とのネゴシエーションなど未知の領域で、「何でもできます」という姿勢が後であだになってしまったりと、経験を積んでいく中で否応なく学んだことが多かったです。
保育業界だからこそ、のご苦労もおありだったのでは?
例えば親会社とは、「生後57日目以降の子どもを預かる」という契約を締結していますが、現場を任せる保育士は怖がって預かりたがりませんでした。突然死症候群などもあるので、子どもが寝ていても10分おきに息をしているかどうか確認もしなければいけないのですね。 私は兄弟も多く長女でしたので、子供の頃から小さい子たちの面倒も見ていましたし、自分の妹の子が実際に突然死症候群で亡くなるという経験もしていました。

ただ逆にそういった幾重もの育児経験で、確かに生後6か月を超えるまではより注意して子どもをみる必要もあるのですが、それよりも「かわいい」と思って、子どもと接することがより大切だということも理解していたつもりです。そういった面では、キャリアではなく、自分の子育て経験が今の仕事にかなり役立っているといえるかもしれませんね。
保育園の運営方針など、教えてください。
保育理念としては「一人ひとりの個性を尊重し、子ども目線での保育を目指します」と掲げていますが、大切にしているのは「子どもの自己肯定感を高める」育て方です。家で子どもを育てていると、お母さんの毎日は大変ですから、あれやっちゃだめ、これやっちゃだめ、などゆったりした気持ちで育てられないこともあると思うんですが、保育園では「いいこだね」、「よくできたね」と事あるごとに子どもを認めて、ほめています。

特に、「何かやろう」といった意欲も積極的に育てるようにしていて、もちろん悪いことをすると保育園でも叱りますが、基本的には何でもやらせて、危なくなければ子どもの「やりたい!」といった意思を尊重するようにしています。 今、多くの保育園では、英語を勉強させたり、本を読ませたり、と知的なお勉強をする園が多いのですが、そういった目に見える成果の追求とは逆行しているといえるかもしれません。
ご自身の育児経験に加え、猛勉強もなさっていたと伺っています。
そうですね、もちろん育児経験もありましたが、心理学から保育学まで自分なりに勉強もしたと思います。ただそういった勉強からというよりは、ベースになっているのは私自身の未来の見据え方が大きいかもしれません。
今、世の中で、どういう人間が求められているかを考えると、私自身は英語ができるとか頭がいいとかではないと考えています。

例えば問題解決ができる人、リーダーシップがとれる人、壁にあたっても乗り超えていける人、自分で自分の道筋を考えられる人、などだと思うんですね。 現在園では0歳から2歳まで預かっていますが、子どもの人数も少ないのでクラス分けせず、異年齢保育をしています。ですから例えば、上の子を下の子が見習う、下の子を上の子が面倒みる。そんなことを意識しながら、保育士には保育にあたってもらっています。

特に今東京では、多くの子が一人っ子ですから、保育園といった外での機会がないと、年齢の異なる子どもどうしが触れ合う機会がどうしても少なくなってしまいます。保育士とも「最終的にこんな大人になってもらいたい」ということを何度も話し合い、指針にし、子どもと接するようにしてもらっています。
実際にすでに、障がい者雇用を実践されていらっしゃると伺いました。
統合失調の精神障がいの方ですが、働いてもらっています。幻聴幻覚は、医師の処方のもとすでにおさまっていますし、コミュニケーションも通常問題なくとれる方です。もちろん、採用時の面接で十分コミュニケーションもとらせていただいていますが、やはりアイエスエフネットで数多くの障がい者の方々と日々仕事させていただいた経験が大きいです。

例えば他の方と比べてちょっと疲れやすい、といった点があるようなので、シフトで工夫するなど、実際の現場で臨機応変に対応しております。実際に問題ある状況にもなっておりません。 もちろん、保護者の方にとっては、知らないが故の不安というのもありますので、お子さんをお預けになる保護者の方へきちんと事前に説明をさせていただきました。働くスタッフどうしがチームで助け合う、協力しあう、といった学びや人間的成長の場になれば、むしろ保育サービスはより充実していくと考えています。
今後の展望を教えてください。
東京都ではまだまだ保育園が足りていない状況ですから、次の園を開園する計画も立てています。が、場所を調査していても、良い場所はすでに大手の企業さんが確保されていて、この事業の難しさも痛感しています。ですから大手ではできない、弊社ならではの取り組みを考えています。 実は、子どもを預かってくれる保育園がなく本当に困っている人が園に来て、何人もお断りしています。

仕事の復帰は決まっているのに、預かってくれる保育園がない。父親は何もできませんが、お母さんにとっては死活問題です。「空いていないんです」と事前に電話でお話していても、当日お金も印鑑も持ってきて、「何とかしてください」とおっしゃる。本当に大変です。何とかしてあげたいから、自宅を開放して、個人的に預かってさしあげようか、と考えています。

目の前で、本当にがっくりと肩を落として帰られる姿をみると、もう会社だとか、ビジネスだとかの枠組みではなく、赤字にさえならなければ、何とかしてさしあげたい、と同じ女性として思うんですね。その上で、自分に何かお手伝いできるのであれば、何とかしたいと思っています。
課題が目の前にある限り、解決されたい?
そうですね。課題がある限り、解決できるならばやり続けたいです(笑)。 お断りしたのは、ご本人が弁護士さんとお医者さんのお母様でした。企業にお勤めの方も大変だと思いますが、小さな事務所やフリーランスの方の保育事情は本当に厳しい状況です。 うちの保育園に期待をしてきてくださったのに、目の前で本当にがっくり肩をおとされる姿を見ると、「何とかできるなら、自分が何とかせねば。」その想いだけです。

共感するからこそ、私も行動するだけです。 世の中にはそれこそ星の数ほど多くの課題や問題もあると思いますが、私自身は、目の前にいらっしゃる、困っている方に自分は何が提供できるのか。多くの方々のサポートも借りながらですが、大きなことから考えるのではなく、目の前の課題解決に集中して、ですね。
ありがとうございました
井上 弘美さん
20代で結婚後、勤めていたシステム関連会社を退職し専業主婦へ。2人の子どもを育てあげた後、勉強を再スタート。レイクランド大学卒業。育児や離婚等の経験を通じて40代半ばで起業を決意。障がい者雇用で先進的な会社で仕事経験を積む。働く力があり、働きたい人がもっと働ける場所を作りたい、障がい者も健常者ももっと柔軟に共存できる多様な社会を実現させたいとの願いから、港区赤坂の事業所内保育施設「ゆめみん青山保育園」の運営業務を2013年8月1日より受託。保育園の運営事業を核に、目の前にある課題解決に従事し続ける。
ゆめみん青山保育園:http://www.yumemin-nursery.com/
取材:東京ウーマン事務局 児玉圭子


 


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