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■ 音楽の世界を彩る女性たち


「私とラヴェル」ピアニスト 新居 由佳梨さん

第5回 「私とラヴェル」
ピアニスト 新居 由佳梨さん
新居 由佳梨さん (プロフィール)
東京藝術大学、同大学院を経て、スイス国立ジュネーヴ音楽院修了。第7回イタリア・モノポリ国際ピアノコンクール第3位、第69回日本音楽コンクール入選ほか受賞多数。ヨーロッパでのピアノフェスティバルやリサイタルシリーズに出演。帰国後は、スタインウェイ・ジャパン社による「Young Virtuoso Seriesにおいて各地でリサイタル活動を行い、同社レーベルよりCD「メランコリー」を、2013年には「透明な風~ラヴェル名曲集」をソニー・ミュージック・ダイレクトよりリリース。シャネル(株)「Pygmalion Days」シリ-ズ2007年度アーティスト。(一財)地域創造「公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト」2012年・13年度アーティスト。 伝説のヴァイオリニスト、イダ・ヘンデルとの共演CDリリースを皮切りに、国内外の著名器楽奏者との録音・共演も数多く、安定感ある技巧と細やかな心配りで室内楽奏者としても厚い信頼を寄せられている。第76回及び第79回日本音楽コンクール・バイオリン部門にて共演賞受賞。2007年より6年間東京藝大伴奏助手を務める。洗足学園音楽大学ピアノ科非常勤講師。 スタインウェイ・アーティスト。

(プロフィール写真:c Masafumi Hikita)

ラヴェルピアノシリーズ第2回目として今年は7月に銀座の王子ホールで演奏されました。
多方面からの高評を伺っております。ご成功おめでとうございます。
ありがとうございます。皆様のお言葉が嬉しくてとても励みになります。 大勢のお客様にご来場いただき無事に弾き終えることができてほっとしています。 このラヴェルピアノシリーズはわたくしの自主企画で、昨年から始め今年で2回目になります。来年予定しておりますシリーズ3回目もわたくしの大好きなラヴェルの世界を多くの皆様と共有したいと思っています。
新居さんといえばラヴェルですね?
はい、もともとフランス音楽が好きでしたが特にラヴェルを弾きたいと思うようになったのは学生時代です。フランスでパスカル・ロジェさんのマスタークラスを受けたこともきっかけになりました。彼の醸し出すラヴェルの音色はきわめて美しく憧れのピアニストです。

ラヴェルの音楽は、透明感と色彩感あふれる音の世界を演出します。計算しつくされた緻密さを感じますしいろいろなアイディアが盛り込まれていながら優雅で美しい。弾くほどに好きになります。時々、そんなわたしをラヴェル自身がどこかで密かに笑いながら見てくれているような気さえします。
新居さんのブログを拝見してとても印象に残っている文章があります。

『ピアノからは音しか出ないけれど、その音には色があって、香りがあって、息吹があって・・・。つくづく、音楽って生きてる、と感じます。そんな色づいた音がホール全体に響き渡って、時と空気の流れをその場にいる方々と共有できる・・・そのひと時は、私にとって大切で、とても幸せな時間です』

これはまさにラヴェルを弾かれるときの新居さんの思いですね。 本当に演奏することがお好きなのだなと感じました。そのような新居さんの生きた音楽の表現力はどのように培われたのでしょう?
ありがとうございます。やはりジュネーヴに留学したことが大きな力になっています。 留学先では音楽を「楽しむ」ことを体感しました。国籍や年齢も異なるクラスメイトたちと時間を忘れて音楽談議に浸り、お互いの演奏に耳を傾け、よい演奏を聴いたときは心を込めて称賛しあう。自分が素晴らしいと感じたことは相手側に直接、しかも確実に素直に伝えるわけです。「今の君の演奏は素晴らしい!」と。

それは受ける側にとっても伝える側にとってもとても素晴らしい瞬間です。朝から晩まで一日中皆が自然体でピアノに向き合い自身が求める音楽をひたすら求めていました。それも心の底から楽しみながら。音楽を楽しむとは、自分が感じるままに音楽を楽しむこと、「ああ、もっと自由でいいのだ」ということを心の底から感じました。これは、日本にいながら大学で勉強しているだけでは得られなかった貴重な体験です。音に命を吹き込む心の持ち様、音楽を「楽しむ」ということを体で感じたことはわたくしの演奏に大きく影響しています。
大変実りの多い有意義な留学生活でしたね。
始めは住むところや言葉に慣れることに精いっぱいでした。学校はジュネーヴでしたが、実は住んでいたのはお隣フランスのリヨンだったのです。ジュネーヴは物価が高く、もともとはフランスに住みたかったので、リヨンからジュネーヴまでパスポートを持って通いました。

慣れないながらもリヨンの街並みや人々の表情などがとても新鮮で、特に見知らぬ人同士が路上で挨拶をかわす光景などは驚きと共に好ましさを感じ、来てよかったなと思ったことを覚えています。外国で暮らすことはまず土壌に慣れることが先決だと思いますが、言葉に少々不自由はあったものの、わたくしはすんなり自分を受け入れてくれたリヨンという街をすぐに好きになりました。

役所でスタッフと客が大声で議論をしていることを見たことがあります。どちらも譲らず平行線のまま延々と自分の主張を繰り返すだけの無為な議論なのですが、それでも議論を打ち切った次の瞬間は「よい一日を!」と声を掛け合うのです。なんとすてきな人たちだろうと心の底から愉快になりました。相手を認めて尊重する人と人との関わり方がいいなと思いました。
その留学生活からもどられてから、表現により一層幅がでたのですね?
実は自分ではとくに変わったという意識はありませんが、そういう感想を人からきいてとても嬉しく思いました。色彩感といいますと、もうひとつ、アンサンブルをやらせていただいていますがこれが大きく影響しています。伴奏ももちろんそうですがふたりで一つの音楽を作っていくソナタなど、ソロ演奏では決して得ることのできない勉強をさせてもらっています。

楽器によって音や色の出し方はもちろん、人によっても全く違います。ヴァイオリンは弓の運び方やしなやかさを自身の身体を通して奏でます。管楽器は呼吸がそのままフレージングになります。 ピアノではない別の楽器を演奏するアーティストの呼吸や息遣いを感じ、相手を思い、楽器を思い、寄り添いながらともにつくりあげていきます。

その楽器のことを知らなければできないことですから文字通り相手を思う、感じることにつながり、それが表現につながっているのではと思います。初めて打楽器の伴奏をしたときは、伴奏より先に打楽器の練習から始まりました。 いきなり先生から指示を受けて、第一回目はピアノを弾かず打楽器の奏者に演奏を教わることから始まりました。

間合いやイメージを大切にしながらピアノだけでは気づかなかったこと、本当は気づかなくてはならなかったことを見過ごしてきたことを発見できたのはとてもよい経験でした。また、相手がリハーサルと全く違う演奏をしてくる場合もありお互いの掛け合いが絶妙にうまくいった瞬間は素晴らしいです。本番でこそ生まれる、決して意図的ではない会心の演奏ができる瞬間があります。

そんな時は思わずお互いに目を合わせにっこりする。それは至福の瞬間です。ここセントレホールでもソロコンサートだけでなくたびたび伴奏をさせていただいています。この秋にやはりこのセントレホールでテューバの伴奏をさせていただきます。藝大の大学院生ですがとても優秀で、テューバのソリストを目指す人は大変少ないのでとても楽しみにしています。
藝大で伴奏助手をされていましたね。
今後もアンサンブルとソロ演奏の両方を続けていかれるのでしょうか?
はい、そう思っています。やはりソロ演奏が好きですしこちらの比重が大きいのですが、アンサンブルは私には欠かすことはできません。どちらが欠けても私ではなくなるような気がします。できれば両方とも続けていきます。欲張りです(笑)
不躾な質問で恐縮ですが、演奏会で演奏をはじめる前、ピアノの前に座られてから曲を弾き始めるまでのわずかな間、会場全体が息をのむような緊張感のなかで新居さんはどのようなことを考えておられるのですか?
一曲目の時に必ずすることはピアノに「今日はよろしくね。これから長い旅にでるけどご一緒しましょう」と話しかけます。あとは、姿勢を整えたり曲のイメージのことを心に描いたり、しています。
演奏活動などで大変お忙しく全国を飛び回っておられる印象ですが、練習時間はどのように確保なさるのですか?
やはり帰宅してから集中的に練習をします。日中はほとんど移動やリハーサルにとられますので。夜間に始めることになるのですが練習をしているとあっという間に時間が過ぎて気が付くと夜中の0時ということもあります。練習をしているときは疲れを感じませんし集中力はあるほうだと思います。
大変ハードな毎日ではありませんか?
身体は丈夫なので大丈夫です。風邪もひきませんし、よく食べます。演奏をすることはとても好きなのでそのための練習は大事な時間です。小さい頃は練習が嫌いでしたが(笑)
これからはどんな音楽人生を考えておられますか?
出来る限り演奏会をしていきたいと思っています。先日のラヴェルシリーズのような本格的なコンサートももちろんですが、トークを交え、お客様とコミュニケーションをとりながら演奏するコンサートも多く展開していきたいと考えています。トーク入りのコンサートで曲の解説や曲に対するわたくしの想いを語ったあとの演奏に対するお客様の反応は、話す前とはあきらかに違うのです。

やはり言葉で伝えたことに反応してくださっていると感じ、手応えを感じます。そのお客様の集中力は演奏している間に私にも確実に伝わります。ひとつの空間を私の好きな音楽を皆様と共有している実感があって実に楽しい瞬間です。そして今後はもっともっと演奏活動の幅を広げていきたいと思っています。ラヴェルはもちろんですが、ラヴェルだけではなくドビュッシーや、最近はラフマニノフのコンチェルトにも意欲があります。

そんな中で今までのわたしとは違う私自身の内面を探してみたいと今思います。演奏は清楚で上品なイメージとしてとらえられ、それはそれでとても嬉しいのですが、ここ数年、そうではない自分がどこかにいるかもしれないと感じることがあり、それまで表にでてこなかったわたくしの内面を見つけ出してみたいと思っています。わたくしの本質がどこにあるのかを見つけだしそんな自分とゆっくり対峙してゆく、それを楽しみにしています。
新居さんの本質、とはとても魅力的な表現です。
そうですか?今までとは異なったイメージの演奏をしてみたいと思います。 わたくしはまだ自身が何者であるかということに向き合っていないような気がするのです。 それを探す旅に船出しようとしている自分を感じます。
今後の演奏会を楽しみにしています。
ラヴェルを中心に演奏の幅を広げてゆかれることと思います。
はい、もちろんです。ラヴェルピアノシリーズは来年でいったん終わりますが、ラヴェルはわたしの音楽人生をひろげてくれた大切な人ですし、大好きです。 シリーズ第一回目は「古典と舞踏へのオマージュ」、第2回目は「性格的小品と詩的な調べへのオマージュ」という副題でした。まだ公表はできませんが、3回目の来年のテーマももう決まっています。 会場で皆様とお会いできることを楽しみにしています。
スタインウェイ会最高顧問 鈴木達也氏にインタビュー
鈴木会長にお聞きします。
先の王子ホールでのラヴェルシリーズ第2回目のご感想をお聞かせください。
見事でした。ラヴェルを中心にドビュッシーやスクリャービンを取り入れ実に色彩豊かで美しい演奏でした。桁違いにうまい。ともすれば平坦になりがちな選曲と思われましたが、あそこまで一音一音を丁寧に積み上げ立体的につくりあげることは並大抵ではないと思います。素晴らしかったですね。
新居さんの演奏活動につきましてアドヴァイスはありますか?
そうですね、先ほどご自身の隠された本質と対峙しつつこれまでとは違った演奏をし てみたいとおっしゃいましたが、新居さんのすごさは現状に満足せず常に先を見てい ることです。学生の頃から存じ上げ、これまで新居さんの活躍をみてきました。聴く度に成長を感 じます。先のラヴェルシリーズのコンサートはこれまでで最も高い水準に来ていると 思います。
成長を見守っていただいてるようで感謝しております。
これからもどうぞよろしくお願いします。

img 鈴木 達也
スタインウェイ会最高顧問
1938年東京生まれ。1962年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。68年米国ロサンゼルス米国現地法人ヤマハ・インターナショナル・コーポレーションへ出向。78年同取締役副社長。84年帰国、ヤマハ株式会社秘書室長。86年(財)ヤマハ音楽振興会専務理事。89年ヤマハ株式会社取締役、米国本社ヤマハ・コーポレーション・オブ・アメリカへ出向、同代表取締役社長。92年帰国、ヤマハ株式会社顧問。97年スタインウェイ・ジャパン株式会社代表取締役社長。2008年より会長、相談役、スタインウェイ会会長、2010年よりスタインウェイ会最高顧問、現在に至る。
企画・取材
南麻布セントレホール
img東京都港区南麻布4-12-25-3F(受付2F)
直通電話:03-5791-3070 
代表電話:03-3446-0660

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インタビュアー
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福田 明子
ホールのオープンとともに管理運営に携わっています。クラシック音楽の演奏会をこよなく愛し朝から寝るまで音楽づけの毎日。たゆまぬ努力を重ねるアーティストの魅力的な人間性に触れる機会が増えるにつれ、音楽のもたらす力を実感している毎日です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 


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