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濱野 裕貴子 キャリアカウンセラー/ワークショップデザイナー 笑門来福
「お江戸」「古典芸能」というちょっとナナメの切り口から、人生やキャリアについて考えてみたいと思います。
古典芸能で紐解くキャリア・仕事・生きること 趣味・カルチャー 2016-09-27
古典落語de「えっ、あの話、本気にしちゃったの?」

仕事上のみならずプライベートでもよくある、「約束が違うじゃないか!」「えっ、もしかして本気にしちゃったの?」という揉め事。殊にお金が絡んでくると、大問題に発展することも…。回避するにはどうしたらいいのでしょうか。

今月は、そのヒントになるかもしれない落語をご紹介します!

 

ここは、江戸・馬喰町にある、汚い旅籠。

お客が主を部屋に呼んで、何やら自慢気に話をしています。お客の話を聞いてみると…。

 

今回の旅の目的は、借金の返済を断ることなんだよね。ほうぼうのお殿様に何万両とお金を貸しているんだけれども、先方が「どうしても返します!」と言って聞かなくて…。だから、「お願いですから、どうか返さないでください!」とお願いにいくわけさ。

何しろ、金が有り余ってて困ってるんだよ。家には千両箱でいっぱいの蔵がいくつもあるんだよね。蔵に入りきれないものは仕方がないので、台所で漬物石の代わりに使っているんだけどね。

この間などは泥棒が入ったので、「どうぞ好きなだけ持っていってください!」と蔵の戸を開けてやったのに、一晩で千両箱が80しか減らなくて、心底がっかりしたよ。

家には奉公人が数百人いて、私の身の回りの世話をする者だけでも50人はくだらないんだよね。「旦那様、お願いだからお世話をさせてください!」って皆が懇願するので、本当に面倒でさ。今回、あえて粗末ななりで旅に出てみたが、誰にも構われることがなくて、なんて楽なんだろうって思ったよ。

 

人のいい主は、大富豪のお忍び旅行とすっかり信じ切った様子。「お金持ちの旦那様に、ひとつお願いが…。これを買って頂けませんか?」と言い出します。

主は旅籠経営の傍ら、湯島天神の「富くじ」(寺社奉行管轄の宝くじ)を商っているのですが、どうしても1枚売れ残って困っていたのです。

富くじは1枚一分(4万円くらい)。1等が当たれば千両です。「いや~、これ以上お金はいらないから…」と断るお客に、「大丈夫、めったに当たらないから!」と食い下がる主。

結局、「じゃあ、当たったらあなたに半分差し上げよう」ということで、お客は富くじを買うことになりました。

 

ホクホクの主が部屋を出たあと、深~いため息をつくお客。

それもそのはず、今の話はすべてウソ。ちょっとからかおうと思っただけなのに、相手が悪かった。ホラ話を全て信じ込まれた上に、なけなしの一分(4万円くらい)も失ってしまいました。

 

翌日、湯島天神には大勢の人々が集っていました。富くじの抽選が行われるのを、今か今かと待つ人々です。中には、千両が当たった後の新生活をひとり芝居のごとく熱演する男や、「夢枕に立った神様にお願いしたから、1等は無理だが2等は絶対当たるんだ!」と息巻く男などもいて、熱気むんむんです。

やがて寺社奉行立会いの下、いよいよ抽選。自分の富くじを握り締め、読み上げられる当選番号に聞き入る人々。

結果は…。新生活熱演男も2等当確男も、残念ながら桜散る結果に…。

夢破れて肩を落とし、皆、家へと帰っていきました。

 

そこに通りかかったのが、件のお客。「細川様に、2万両の返済をしないようにお願いに行ってくる!」と宿を出て、日がな一日ブラブラしているうちに、湯島天神へとたどり着いたのです。

当選番号の掲示を見て、

「そういえば、昨日買った富くじ、どうだったかな。当たるはず、ないけどな。どれどれ、当たりが『子(ね)の1365番』か。俺のは、『子(ね)の1365番』…。惜しい、少しの違いだな。うーん、子の、1365番……1365……?1365……! うわ~! あた、あた、当たった!

 

腰が砕け、足はガクガク。やっとのことで旅籠へ戻ってきました。

「(はっ、当選を主に知られたら半分取られちゃう! 主と顔を合わせないようにしなきゃ!)私は風邪をひいたから、もう寝ますよッ! 構わないでくださいッ!」と言い残し、二階の自室に一目散。布団をかぶって寝てしまいました。

 

そこへすっ飛んで帰ってきたのが、旅籠の主。彼もまた、富くじの掲示を見て自分が売った富くじが1等当選と知り、急いで旅籠へ帰ってきたのです。

 

二階に駆けあがり、お客の部屋に転がり込む主。

「(やった! 500両もらえるんだ!)旦那様、1等当たりましたな!」  

「うるさいねえ、千両ばかりでこの騒ぎですか。情けないねえ。なんだい、あなた下駄を履いたままじゃないか」

主は思わず、下駄を脱ぐのを忘れて駆け込んでしまったのです。

「そんなこと、どうでもいいんです。さあさあ、下でお祝いいたしましょう!」

 

主がお客の布団をめくると…、お客も草履を履いたまま寝ていました!

これは、「宿屋の富」という噺です。一攫千金を夢見る人の気持ちは、いつの世も変わらないんですねえ。

 

実は私、かねてからこの噺を聴くと気になって仕方がなかったことがあるんです。それは、「お客は、旅籠の主に500両あげなければならないのか?」ということ。

これが仮に現代の日本だったら、どうなるんでしょうね。

そこで今回、知り合いの弁護士、梅宮聡さん(※)に伺ってみました!

梅宮さんのお答えは…。

結論から言うと、払わなくてOKです。契約は口約束でも成立するけど、贈与契約の場合は特別に書面にしていなければ、撤回できます。書面は契約書でなくとも良くて、第三者に宛てた手紙とかでもOKです!

へえ~。じゃあもしこの話が現代であれば、お客はまるまる千両、手にできるということなんですね。逆に言えば、契約をしっかり書面にしておくことって、やっぱり重要なんですね。

 

さて、法律の話はこれくらいにして…。この噺で私が好きな2つの場面をご紹介しましょう。

1つめは、お客が旅籠の主に大ボラを吹きまくるシーン。常識で考えたら絶対あり得ないような話を、調子に乗って得意げに話しまくるお客と、それを素直に信じてしまう主のコントラストが、なんとも絶妙なのです! 

2つめは、湯島天神で夢を語る男たちのシーン。私たちも、「もし宝くじ当たったらどうする?」って話しますよね。まさにその話が展開されるのですが、これがまあ、ハチャメチャ! 上に紹介した男たちのほかにも、庭に池を掘ってお酒で満たし、そこに飛び込んで飲みながら泳ぎたいという男など、実にさまざまな夢が語られます。

 

悲しいかな、私がここでいくら熱弁をふるっても、本当の面白さを伝えることはできません。落語家さんの動きや表情、声などを通じて初めて体感できる面白さですので、ぜひとも実際に聴いて、観て、頂きたいと思います!

 

 

※梅宮 聡さんのプロフィールです。何かお困りのことがありましたら、ご一報を!

ネクセル総合法律事務所 弁護士 梅宮聡

専門はIT企業法務。システム開発の紛争解決、利用規約の作成、契約書のチェック、IT企業の創業サポートなどを中心に活躍。


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