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濱野 裕貴子 キャリアカウンセラー/ワークショップデザイナー 笑門来福
「お江戸」「古典芸能」というちょっとナナメの切り口から、人生やキャリアについて考えてみたいと思います。
古典芸能で紐解くキャリア・仕事・生きること 趣味・カルチャー 2016-08-23
古典落語de「ワークショップってどんなもの?」

近年、企業の組織開発や人材育成、学校教育などでもよく取り上げられる「ワークショップ」。体験したことのない方は、「いったいどんなものなの?」と思われることでしょう。

 

私は今年の5~7月の約3か月間、青山学院大学で開講されている「ワークショップデザイナー育成プログラム(註1)」を受講していました(実習や課題が盛りだくさんで、頭も体もフルに使う、大変だけれども非常にやりがいのある素晴らしいプログラムでした!)

プログラムの総まとめとして、ワークショップについて知らない人に対して『ワークショップとは何か』を説明するということに…。正直、とっても悩みました。

いろいろと考えた末、私が考えた説明はずばり、「ワークショップとは、『古典落語〝孝行糖″における町内の寄り合い』と似た性質を持つ活動である」というもの。

 

非常にニッチな説明で恐縮です(笑)。

でも、読んでいただけばきっと、ワークショップを知らない方にも、「ワークショップってどんなものなのか」が少しはイメージしていただけるのではないかな…と思うのです。

そこで今回は思い切って、「古典落語で説明する『ワークショップとは?』」を皆様にご紹介してみたいと思います!

 

 

古典落語「孝行糖(註2)」には、与太郎(年齢の割に発達が遅れている若者≒社会的弱者)の支援策について、町内の人々が知恵を絞る寄り合いのシーンがあります。

私はこのシーンに、「ワークショップ」の特徴が描かれていると思っています。

 

与太郎は、発達は遅れていますが、とても優しく親孝行。それが認められて、お奉行様から5両のご褒美を貰いました。

町内の人々は、その5両を元手に与太郎に仕事を創り、社会的・経済的自立を支援しようとします。寄り合いのシーンでは、大家さんを中心に、町内の面々が与太郎の特性を生かした商売や売り出し方について話し合い、合意形成していく様子が描かれるのです。

商材は、与太郎にも扱えるものは…と検討した結果「飴」に。商品名は、親孝行から取って「孝行糖」に。キャッチフレーズは、与太郎が生来の陽気さや歌の上手さを生かして商売ができるようにと「歌う飴屋」に。与太郎が歌うオリジナルソングやユニフォームも、皆の力で作り上げていきます。

 

このシーンで特徴的なのは、寄り合いの参加者が与太郎の自立支援策を考えることに関する当事者意識を持ち、自分たちの納得解を見つけ出すために主体的に考えを発信していくこと。

参加者には、自分の考えがメンバーに受け止められ、相互作用し、自分の言動により周囲を動かせている感覚があります(この感覚を「自己原因性感覚」と呼ぶそうです)。

また、その場で新たなアイディアがどんどん生まれるし(「即興性」)、オリジナルソングを作る過程で歌ったり、活動の進展にワクワク感を感じてもいます。活動のプロセスに、思考だけでなく感情や体の動きも伴っているのです(「身体性」)。 

 

 ワークショップは、中野民夫氏(註3)によれば、「参加者が自ら参加、体験し、グループの相互作用の中で、何かを学び合ったり創り出したりする、双方向的な学びと創造のスタイル」と定義されます。

また苅宿俊文氏(註4)によると、「コミュニティ形成のための他者理解と合意形成のエクササイズ」、つまり「よく知らない者同士が集まり仲間となっていくために、互いを理解し合い、皆の納得解を見つけ出していく練習をすること」が、ワークショップの前提条件です。

前述の定義や前提条件に照らすと、「孝行糖」の寄り合いのシーンはまさにワークショップ的であると、私は思うのです。

 

 今挙げた「自己原因性感覚」、「即興性」、「身体性」は、合意形成に不可欠な「協働性」が機能するためになくてはならない要素ですが、同時に我々が見失いがちなことでもあります。

学校教育に慣れた我々はつい「誰かが正解を与えてくれる」と思いがちですし、成果主義の風潮はプロセスの軽視を生んでいるからです。だからこそ我々は、ワークショップを通じてそれらを取り戻し、発揮の練習をする必要があると思います。

 

 なお、寄り合いで参加者の活動をうまく引き出しているのは、終始承認と問いかけによって場を促進する大家さんです。参加者が、安心安全な場で伸び伸びと主体的に活動するためには、ファシリテーターの果たす役割も非常に大きいといえます。

 この説明を意識しつつ、実際に「孝行糖」を聴いてみて頂きたいです!

いかがでしょうか。ワークショップってどんなものか、少しは感じていただけましたか?

 

この文章を読んで、落語好きの方がワークショップにも興味を持ってくださるといいなあ。また逆に、ワークショップをご存じの方が落語にも興味を持ってくださったらいいなあ。

この文章がきっかけでそんなことが起きるのなら、ワークショップと落語が大好きな私にとって、このうえない喜びです。

 

(註1)「ワークショップデザイナー育成プログラム」とは?

※ワークショップデザイナー育成プログラムのホームページより。

「ワークショップデザイナーは、人と人とのコミュニケーションの場面を生み出していける専門家として、「共に」活動することを楽しめる資質を持ち、コミュニケーションを基盤とした知識や技能を活用する参加体験型活動プログラム(ワークショップ)の専門職です。

ワークショップデザイナー育成プログラムでは、ワークショップデザイナーの専門性を「コミュニケーションの場づくり」と位置づけ、ワークショップの企画・運営、コーディネート、講師ができるようになることを目指しています。」

 

「ワークショップデザイナー育成プログラム」、詳しくはこちらをご参照ください。

http://wsd.irc.aoyama.ac.jp/

 

(註2)「孝行糖」

噺そのものについては、「東京ウーマン」の当コラムでも以前ご紹介しております。よろしければご参照ください。

古典落語de「弱者の支援」

https://www.tokyo-woman.net/Column20551.html

 

(註3)中野民夫氏

ワークショップ企画プロデューサー/東京工業大学教授

 

(註4)苅宿俊文氏

青山学院大学社会情報学部教授

※苅宿先生は「ワークショップデザイナー育成プログラム」の校長先生のような方だと私は思っております!


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