夏が近づいてきました。海の季節の到来です。
海に囲まれた日本ですが、日本には6,000以上もの島があるのだそうです。
離島経済新聞によると、日本の島々にはそれぞれに少しずつ違った固有の文化があるとのことです。さまざまな島を旅することで、日本の中の多様性について学ぶことがたくさんありそうです。
海といえば、この4月に東京ウーマン主催で行われた「輝く女性戦略会議」ワークショップでお会いしたクリスティン・エングヴィッグさんが、ノルウェーの海に囲まれた小さな島で生まれ育ったと話してくれたことが印象に残っています。
クリスティンさんは、W.I.N. (ウイメンズ・インターナショナル・ネットワーキング)という組織を立ち上げ、2012年に米フォーブス誌の「世界で最もパワフルな女性150人」にも選ばれた方です。しかしお会いしてみると、まるで昔からの友人にでも出会ったかのようにリラックスさせてくれる方で、女性らしさがあふれた自然体な姿に、多くの参加者の方も感銘を受けたと聞きました。
ワークショップの中で、クリスティンさんはその自然豊かな小さな島で生まれ育ったことが、自分の人生にとても大きな影響を与えていると話してくれました。
あくまで私見ですが、クリスティンさんは子どもの頃に培った自然への感受性を今でも持ち続けているからこそ、今こうしてリーダーとして活躍する中でも女性らしさを保ちつつ、自然体でいられるのではないでしょうか。実際、クリスティンさんは“女性らしい価値観”(feminine value)を大切にして活動されており、そうしたクリスティンさんの姿勢が男女を問わず、世界中の多くの人たちの共感を集めています。
『海からの贈物』(原文:Gift from the Sea)の著者であるアン・モロウ・リンドバーグ(飛行家として有名なリンドバーグの夫人)は、女性としての自分の人生を振り返るために、フロリダ沖の島の浜辺のコテージで一人静かな時間を過ごし、浜辺で拾った貝殻を女性の人生のステージになぞらえながら、その時の体験を同著に記しました。
彼女は、著名な夫を持つ夫人というだけではなく、おそらくは相当なリーダー的資質を持った女性だったことと想像します。その強さは、1930年にアメリカ人女性として初めてグライダー操縦免許を取得し、女性飛行家のパイオニアとして活躍したこと、自身の体験などをもとにして何冊かの受賞作を執筆し、幼い長男を誘拐され、失いながらも、第二次大戦中には自らヨーロッパに渡って救援活動を行ったことなどからも伺われます。
『海からの贈物』は1955年、アンが49歳の時に出版されましたが、本の中ではそうした自身の経歴については一切語られていません。むしろ、語られているのは、あくまで仕事と家庭を持つ一人の女性としての人生への内省と洞察であり、当時すでに煩雑さと複雑さを極めてきていた都会での生活から、短い時間とはいえ家族と離れて少し抜け出して、自然の中で一人の人間として暮らすことへの喜びが文章にあふれています。
アンは小さな島での生活の中で、浜辺を歩くことで普段は滅多に出会わないような、年齢や職業もかけはなれた人々に出会ったそうです。そしてその経験が面白く、さまざまなことを学んだといいます。
文中にこんな一節があります。
“大きな都会に住んでいて困ることは、私たちが人の選択をすれば、―そして大勢のものの中で生活し、仕事をし、息をするにはそうして選択する他ないのであるが、―私たちが自分と同じような人間を選んで、それで生活が非常に単調になるということである・・・一つ確かなことは、私たちは何を選ぶのでも、大概の場合、既に知られているものを取り、未知のものに向うことは稀にしかない。それは未知のものが私たちを不愉快にしたり、落胆させたり、或いはただ少しばかり扱い難かったりすることを恐れるからなのであるが、そのように落胆したり、当てが外れたりすることはあっても、私たちを本当に豊かにしてくれるのは凡てそういう、未知のものなのである”
(『海からの贈物』アン・モロウ・リンドバーグ著 吉田健一訳 講談社)
自分が築き上げてきたものに固執することなく、あくまで自然体で、多様な人たちと出会い、会話することに大切な価値を見いだしていたのでしょう。島での生活から学んだ価値観として、アンは次のような意識的な選択をすることを指針としたそうです。
◎ 人生に対する真の感覚を保つために、なるべくシンプルに生活すること
◎ 体と、知性と、精神的な生活のバランスを持つこと
◎ プレッシャーなく仕事をすること
◎ 大切なことと、美しさのためのスペースを持つこと
◎ ひとりの時間と、人とわかちあう時間を持つこと
◎ 人生が時に立ち止まることを理解し、人生への信頼を持てるよう、
自然のそばにいること
(原文を元に試訳)
半世紀以上も前にアン・リンドバーグが記してくれたことと、今回クリスティンさんが話してくれたことには、多くの共通点があるように思えます。そして多様性の大切さが叫ばれる中、女性らしいリーダーのあり方についても示唆を与えてくれるように思えます。
海からの贈り物を受け取りに、今年の夏も海へ行ってきます。
<参考>
○ 離島経済新聞社:www.ritokei.com
○ 東京ウーマン
-『輝く女性戦略会議』レポート:
https://www.tokyo-woman.net/theme187.html
- クリスティン・エングヴィッグ氏インタビュー:
https://www.tokyo-woman.net/theme185.html
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