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村井 えり ディレクター兼シナリオライター MURAIERI
世間知らずで勉強もできなかった私にとって、映画は多様な人生の教科書でした。心の奥深くにちょっぴりトゲが刺さるような、女性(と女優)の人生について考えさせられる作品を紹介しますので、是非一緒に考えていただけると嬉しいです。
映画が描くオンナの人生いろいろ 趣味・カルチャー 2013-12-28
ブルーバレンタイン

『ブルーバレンタイン』Blue Valentine(2010)
監督 デレク・シアンフランス
出演 ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ


「彼女と観たら、どんよりしてしまったよ」
男友達がつぶやいた

シーツがくしゃくしゃの、狭いベッドに横たわる女。
男と子どもの声が聞こえる、「ママを起こそう」「ママ、起きてー」。

よくある朝の光景。「お願いだから、もう少し寝かせて」と2人に言う女。
よく見ると疲れ切った表情である。彼女は明らかに疲れている。

そして、30歳ぐらいの夫婦と、幼稚園児ぐらいの娘の朝食風景となる。
なかなか食べない娘に夫は、テーブルの上にじかにオートミールを置き、いわゆる犬食いで楽しく?食べさせようとする。

汚らしくて、日本人なら「食べ物で遊ばない!」と言いたくなる光景に、妻もイラっとしているようだ。平凡な朝食風景なのに、微妙に不穏な気配が漂っている。そして、愛犬がいなくなっていることが分かってから、不穏さは決定的なものとなっていく。

「ブルーバレンタイン」はこの後、夫ディーン(ライアン・ゴズリング)と妻シンディ(ミシェル・ウィリアムズ)という夫婦の冷え冷えとした『現在』の2日間と、2人が出会って愛し合い結婚する6年前の『過去』を交差させながら進む。フラッシュバックという形式を用いて、夫婦の出会いと別れを描く、カップルや夫婦で観るには到底おすすめできない作品だ。

『過去』・・・家族も学歴もない風来坊らしきディーンは、ニューヨークで運送屋のバイトを始める。引越し作業の仕事で、福祉施設に入居する老人のために、思い出の品々で部屋を飾りつけてあげる彼の姿から、この若者が優しさと、いいセンスの持ち主であることが分かる。

この福祉施設で彼はシンディに出会い、一目惚れする。中流家庭に育ったシンディは、勉強も結構できて医者を目指している。しかし父母の不仲を見て育ったからなのか、それともちょっと美人だからなのか、中学生ぐらいから豊富な男性経験を持っていた。やがてシンディは、歌がうまくセンスのいいディーンに魅かれていく。

2人が心を通わせ合う長い夜の素晴らしいシーンは、夜中じゅう2人の俳優を歩かせ、即興で撮影したものだ。
シンディは、付き合っていた彼氏の子どもを身籠っていた。ディーンは自分の子として育てると言う。なんて優しい男なんだろう。2人は結婚するが、シンディは医大進学をあきらめ、看護師になった。

そして6年後の『現在』・・・魅力的だったディーンの前頭部はハゲあがり、どこで売ってるんだそれ?と突っ込みたくなる、ダサいTシャツを着ている(あんなに素敵だった男性が、たった6年でこんなにヒドくなるのはどうか、ちょっとやり過ぎなんじゃないかと、個人的には感じるが。現在、北米女性に絶大な人気のライアン・ゴズリングは、前頭部の髪の毛を全て抜いたそうだ)。

昼間からビールは飲んでいるものの、塗装業の仕事も適度にやっている。一方のシンディは、医者になる夢を捨ててはいなかった。こうなりたい自分を持っている。野心がある。しかし、家族の金銭面での生活を支えているのはシンディの方、勉学に打ち込むこともままならない。

ディーンは『過去』の2人の思い出のラブソング「You And Me」を流す。「♪君と僕、2人だけ」。「働きすぎない」ことを選び、愛する妻子がいれば他には何もいらない、だから必要以上にお金を稼ごうとか、見た目をきれいにしようなんて思わない。

しかし彼は、自分ならではの人生を築きたいとシンディが思っていることについては、見ようともしていない。シンディはディーンに言う、「あなたは歌や絵の才能があるのに、やりたいことはないの?」シンディは、血のつながらない子どもを育てることに対して、なじったりすることも一切ない、優しいだけの夫、家族しか見ていない、夢も野心もない夫の全てが、もうイヤでイヤで仕様がないのだ。

ドキュメンタリータッチのリアルな手触りで、「ダメ夫」だった監督自身の体験を元に、妻・女性に対するいわば「贖罪」として作られたこの作品を、女性たちは「わかる、わかる」と大絶賛…と思われたが、どうやら日本では「シンディむかつく」という意見も相当多いようだ。

「ミシェル・ウィリアムズって、女ウケ悪そうですよね」と、冒頭の30歳男性が言ったのには驚いた。この作品で数々の賞にノミネートされ、その後「マリリン 7日間の恋」でマリリン・モンローを演じた彼女は、確かに男に媚びを売るのが上手そうな感じだが、この作品では全くそんなことはない。キラキラした若い頃と、トラウマや不満を抱え疲れ切った女性を見事に演じている。では何が「シンディむかつく」なのだろうか。

行きつけの美容院の、50代美容師さん(女性)が、ある日こんなことを言った…「やっぱり、女より男の愛情が勝っている方が、うまく行くわよねえ。こっちは大して好きじゃなくても、愛してくれる男が一番よ」。
血のつながらない子どもを虐待することもない。

過去の男性関係を非難することもない。働きすぎず、家事も手伝い、自分しか女に興味のない、優しいダンナ。そんなダンナの何が不満なの?が、「シンディむかつく」なのだ。そんなダンナが本当にいるなら、あたしが食べさせることぐらい何とも思わないよ、ということなのか。もしかして、日本女性の方が進んでいるのか。はたまた、愛に飢えているのか。

私自身は、夫と妻のどちらが悪いということではなく、ダメになる夫婦ってこんなもんだろうということを、繊細に描いた必見作だと思っている。カップルや夫婦で観るにはおすすめできないと書いたが、とはいえこの機会に「踏み絵」として、自分と自分たちはどうなのか、考えてみるのもいいかもしれない(それで大変なことになっても、責任は一切持てません…)。

 

 

 


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