古典落語de「リーダーシップ論」 |
経営者をはじめ、何らかの組織を預かる人にとって、「リーダーシップ」は永遠のテーマですね。 「望ましいリーダーの条件とは?」という問いにひとつのヒントを与えてくれる話が、実は、古典落語の中にもあるのです。 その落語の題名は「百年目」。大きな商家が舞台の人情噺です。 主人公は、店の一切を取り仕切る敏腕の大番頭(マネージャー)、冶兵衛。手代や丁稚(部下)には極めて厳しく、彼らの仕事ぶりに抜かりがあるとみるや叱責するので、皆からたいそう恐れられ、煙たがられています。 ある時、冶兵衛がひた隠しにしていた私生活上の秘密を、ひょんなことから大旦那(社長)に知られてしまうという大事件が起きます(どんな秘密かは、ぜひ実際に落語を聴いてみてください)。 「大旦那の信用を失った」と思い詰める冶兵衛を、大旦那が呼び出します。クビを覚悟する冶兵衛でしたが、大旦那は次のような話を聞かせ、冶兵衛のこれまでの功労を労いながら、部下への向き合い方について優しく諭します。 昔、南天竺に栴檀(せんだん)という立派な木があって、その根元に南縁草(なんえんそう)という汚い草がたくさん生えていた。みっともないからと南縁草を取り除いたら、不思議なことに栴檀が枯れてしまったそうだ。つまり、栴檀は南縁草を肥やしにして、南縁草は栴檀の露で、それぞれ育っていたというわけだ。 栴檀が育つと、南縁草も育つ。南縁草の勢いがいいと、栴檀も栄える。 店に話を移せば、今度はお前さんが栴檀で、店の者が南縁草だ。栴檀は元気がいいが、南縁草はしおれかけているね。始終ガミガミ言われていたのでは、店の者はのびのび働けない。店の者が枯れてしまっては、お前さんも私も栄えることができなくなる。心を丸くして、店の者に向き合っておくれ。店の南縁草に露が降ろしてやっておくれ。そうすれば店の者はお前さんの話を聞いて、自分から動いてくれるようになるよ。 この後、大旦那は1年後に冶兵衛に暖簾分けをする約束をし、冶兵衛は大旦那の温情に涙を流す…「百年目」は、こんなストーリーの落語です。 さて、「百年目」にみられるリーダーシップとはどんなものなのでしょうか? 今回は、社会心理学者、三隅二不二氏のPM理論(1984)を参考にして、考えていきたいと思います。 PM理論では、リーダー行動をP機能とM機能の2次元で捉えます。 PとはPerformance(課題達成)のことで、具体的にはメンバーを最大限働かせる、仕事量をやかましく言うなどがあげられます。対してM とはMaintenance(集団維持)のことで、具体的にはリーダーがメンバーを認める、メンバーの立場を理解する、メンバーを信頼するなどがあげられます。 リーダーの行動は、P機能とM機能、それぞれの程度の高低によって、表のような4タイプに分類することができます。
(三隅,1984を参考に作成) では、「百年目」に出てきたリーダー像をこの4分類に当てはめて考えてみましょう。 まず冶兵衛は、部下の仕事ぶりや成果を厳しくチェックし、ガミガミ叱りつけながら仕事をさせようとしていました。職場の雰囲気作りや部下の心情に気を配ることよりも、課題達成や生産性向上を至上目標とするリーダー(Pm型)だと考えられます。 一方、大旦那は冶兵衛に対し、部下のことを気にかけなさい、自分の人間性を高めて部下としっかり向き合いなさい、と諭しました。大旦那が冶兵衛に求めたのは、課題達成や生産性向上は目指しながらも、同時に集団内の雰囲気づくりにも配慮するリーダー像(PM型)であると考えられます。 PM理論の研究においては、4つのリーダー行動のタイプによって集団の生産性やメンバーの満足度にどのような違いが出るかが実証されています。その結果、生産性とメンバーの満足度のどちらにおいても際立って最も効果的なのは、「PM型」でした。 この結果に基づけは、大旦那が冶兵衛に求めたリーダーとしての振る舞いは、家業を繁栄させるため、使用人の労働に対する満足度を高めるため、双方に有効なものであった、と言えるのではないでしょうか。 今回は、古典落語からリーダーシップを考えてみました。 落語に限らず、古典芸能を鑑賞する時に「このなかに、現代に通じる示唆や知恵はないかなあ」と考えると、意外な発見があるものです。 これぞ温故知新。皆さんも、試してみてください。 参考図書:よくわかる産業・組織心理学(ミネルヴァ書房) |
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